京都御所の北に位置する相国寺は、京都のど真ん中にありながら、「しょうこくじ」と正確に読めて、どんな寺院なのか詳しく知っている京都人は少ないかもしれません。重厚な堂宇が林立する境内は禅宗寺院特有の凛とした空気感が漂い、無料で拝観できるスペースだけでも十分見ごたえがあります。更に秋と春の特別拝観では、普段見ることのできない美しい庭園や重要文化財に触れるチャンスです。11月に入り、紅葉も見ごろになってきたかな、と思い訪ねてみました。
相国寺の場所
相国寺の行き方
電車で
バスで
51、59、201、203、急102系統
「烏丸今出川」下車 徒歩7分
59、201、203系統
「同志社前」下車 徒歩6分
相国寺を以前訪ねた際の記事です。歴史や諸堂,寺宝を集めた美術館を詳しく紹介しています。
北改札から出る行き方もありますが、今回は南改札から出るルートをご紹介します。
改札を出たら左手へ向かいます。
南改札を出ると目の前に売店があります。売店の横を通り、3番出口へ向かいます。
表示の向こうにある階段を上がります。
階段を上がり切ると、烏丸今出川の交差点に出ます。今出川通沿いを東(左)へ向かいます。
今出川通です。右手の木が繁っているあたりは京都御所です。今出川通を東へ進みます。
今出川通を250mほど進むと、右手に京都御所の今出川御門が見えます。
今出川御門の前の道を北(左)へ曲がります。
今出川御門の前の道を北へ向いています。左手が同志社大学、右手が同志社女子大学のキャンパスです。この道を北へ150mほど進みます。
相国寺の総門に到着です。
今回はこの特別拝観を目当てに訪ねます。
禅宗様建築の配置は、三門、仏殿、法堂、方丈が南北にまっすぐ並んで建てられるのが特徴で、相国寺も創建当時はそのような配置だったそうです。しかし、度重なる戦火や火災で三門や仏殿は焼け落ち、再建されませんでした。それでも、法堂の北には今も方丈があります。
相国寺とは
相国寺は正式名称を萬年山相国承天禅寺と言い、本尊は釈迦如来像です。室町幕府3代将軍足利義満の命により、当時「花の御所」と呼ばれた幕府の東側に創建されました。のちに京都五山の第二位に列し、五山文学の中心となって多くの学僧を輩出しましたが、相次ぐ火災や戦災で諸堂を焼失。法堂は豊臣秀頼が慶長年間に再建したもので、現存最古かつ最大級の法堂建築です。12の山内塔頭のほか、金閣寺、銀閣寺、真如寺の3カ寺を山外塔頭としています。
相国寺の「相」は宰相、首相などと同じく「しょう」と読みます。「相国」とは国をたすける、治めるという意味で、中国からきた名称ですが、日本でも左大臣の位を相国と呼んでいました。足利義満は当時左大臣つまり相国であることから、相国寺と名付けられました。また、義満の時代は中国では明の時代で、中国に大相国寺という中国における五山制度の始まりのお寺がありました。この大相国寺の寺号を頂いて「相国寺」と名付けられたのです。
総門を入ってすぐ左手にあるのが放生池です。池にかかる石橋を「天界橋」と言います。「天界」とは相国寺と御所との中間に境界線の役目をはたしていることから名付けられました。
総門から入り、放生池の横を通って参道を北へ進むと、左手の赤松の林の向こうに法堂があります。看板に従って更に北へ進みます。
今回特別拝観できる開山堂と法堂をつなぐ通路の前にも「特別拝観」の看板が出ています。この通路を抜けて更に北へ進みます。
通路を抜けて西(左手)にあるのが法堂と方丈です。まず方丈の手前にある拝観受付で拝観料を納めます。
拝観料を納めたら、方丈の南側にある法堂へと向かいます。
法堂の裏側になります。法堂は正面28,72m、側面22.80mの堂々たる大きさです。
写真中央の入口から入ります。
法堂の初建は明徳2年(1391)ですが、以降4度の火災に見舞われ、現在の建物は慶長10年(1605)に豊臣秀頼の寄進により再建されました。禅宗様の法堂建築としては最大級で最古を誇ります。本来は法を説く講堂的役割を果たしていますが、天文20年の石橋の乱で仏殿が焼け落ちて以来、仏殿も兼ね、本尊を安置することから本堂とも呼ばれています。
重要文化財に指定されている法堂の内部は写真撮影不可でした。
写真:相国寺公式サイトより
薄暗い堂内に入ると、正面に高い階段を三方にそなえた須弥壇(しゅみだん)があります。その中央には本尊釈迦如来、脇侍は向かって左に阿難尊者(あなんそんじゃ)、右に迦葉尊者(かしょうそんじゃ)の像が祀られています。
写真:相国寺公式サイトより
相国寺の法堂で特に有名な「蟠龍図(ばんりゅうず)」が天井に描かれています。この龍の目を見ながら、法堂内の須弥壇の周囲をぐるっと歩いて回ると、どちらから見ても龍と目が合うことから「八方にらみの龍」と呼ばれています。
そして、法堂の中心あたりの特定の場所で手を叩くと、その音が堂内に反響し、カラカラと音が鳴ります。その音が龍の鳴き声のように聞こえることから「鳴き龍」とも呼ばれています。
私も所定の位置で手を叩いてみるとパンという音に続いて、カラカラというよりは、パラッパラッという反響音が降ってくるようでした。もっと力強いものを想像していましたが、確かに天から降ってくる音の感じが龍なのかな?龍にしては優しい声だな…と思いました。
帰宅してから調べてみると「ビーン」とか「ビョーン」と聞こえるという記述もみられ、手を叩く位置がずれていたのかもしれません。
禅宗の法堂の天井にはよく龍が描かれています。蟠龍とは、天井に昇る前の地上にうずくまっている状態の龍のことで、相国寺の法堂が建立された慶長10年に、狩野光信によって描かれたと言われています。
方丈
相国寺の方丈は、初建以来幾度も焼失して現在の建物は、天明の大火を経て文化4年(1807)に開山堂、庫裏と共に再建されました。桁行25m、梁間16mで方丈としては大規模な建築です。
法華観音図
方丈とは本来、住職の住まいを指します。この方丈の室中の間に観音菩薩の掛け軸がかかっています。この絵は、江戸時代の遠塵齋によって描かれたもので、すべて法華経の経文の文字によって描かれています。
動植綵絵
毎年6月17日には、この方丈で観音菩薩に自己の罪業を懺悔する伝統的な儀式「観音懺法」が行われます。相国寺と縁の深かった伊藤若冲により寄贈された文殊・普賢菩薩と、複製された動植綵絵30幅が掛けられます。
表方丈庭園
白砂敷きの枯山水庭園で、禅の境地「無」を表現しているそうです。白砂は太陽の反射を利用して室内を明るく照らし、また庭園の後ろにある法堂の姿を立派に浮き立たせる効果もあるようです。枯山水を横切る石畳の模様が斜めのチェックになっていて、モダンに感じられました。
原在中の杉戸絵
方丈の廊下の杉戸には、原在中の「白象図(複製)」があります。江戸時代の絵師、原在中は方丈の障壁画も多く描いていますが、深山幽谷を描いたモノクロの障壁画とは趣が異なるこの杉戸絵の白象は、優しい表情と傾げた首がユーモラスで、見ていると思わず笑みがこぼれます。
裏方丈庭園
白象の杉戸絵の角を曲がると、裏方丈庭園に出ます。細長い敷地の中に、大きな掘り込み状の枯流れ(かれながれ:水を使わないで流れを表現したもの)が東西に横長に広がり、実際以上に広さと奥行を感じさせます。そしてその後ろにはモミジやマツなどが植えられ、枯流れの斜面には苔が貼られ、流れの底には小石が敷かれています。
水を使わない枯山水風の庭でありながら、流れが大きく掘り込んであり、滝石組も奥にあるので、一瞬本当に水が流れているような錯覚に陥ります。深山幽谷を巧みに表現した非常に個性的で見ごたえのある庭園でした。裏方丈庭園は京都市の名勝に指定されているのも頷けます。
開山堂
開山堂(開山塔)は、相国寺を開山した夢窓国師像を安置しています。創建当初の建物は応仁の乱で焼失し、現在の建物は江戸時代後期に桃園天皇の皇后恭礼門院の黒御殿を賜って、文化4年(1807)に移築されました。
開山堂前庭
こちらの庭園は白砂が敷き詰められた手前の庭に石を、奥に奇岩を配した樹木が植えられています。方丈のように本来表と裏の二つに分かれている禅宗の庭が一つになった珍しい庭の形態だそうです。創建当時、上賀茂から水を引き、ちょうどこの庭の中を通して御所に流してご用水としていたため、変則的な造りになったそうで、「龍渕水の庭」とも呼ばれます。
石庭のモノトーンと背後の植木の紅葉が見事なコントラストをなしています。
裏方丈庭園とはまた趣きの異なる、心落ち着く上品な庭園でした。
鬼瓦探し
特別拝観の受付前にこんな掲示が。相国寺内の建物の屋根にある鬼瓦のどこかに、額に☆のある鬼瓦があるそうです。さっそく探してみました。
相国寺の諸堂はどれもとても大きいので、鬼瓦も非常に高いところについています。探しながら見上げていると首が痛くなり、もうダメ…と諦めかけた時に、やっと見つけました!
スマホで撮影したので、これがいっぱいいっぱいです。どこにあるかは、ここに書くとクイズにならないので、自力で探してみてくださいね!
開山堂前におられた係の方に写真を見せながら「見つけた」と告げると、粗品を下さりました。ちょっといいことありそうで嬉しかったです。
相国寺は京都五山二位に列する由緒正しき大寺院ですが、室町幕府の隣という京のど真ん中という立地ゆえ、幾度も戦火や火災に見舞われ、その文化財の多くが焼失したそうです。そのため、寺院としての歴史を記した古文書類も焼けてしまい、相国寺についての詳しい歴史があまり表に語られませんでした。高い寺格のわりに、山外塔頭の金閣寺や銀閣寺ほど注目も観光地化もされなかったのは、そんな経緯からなのでしょう。
ですが、今回訪ねた法堂や方丈、開山堂の寺宝や庭園の数々は、他に類を見ない独自の美しさと趣きがあります。京都御所からもすぐの場所にありますので、機会があれば是非足をお運びください。
2022年秋の特別拝観は12月11日までです。詳しくは相国寺の公式サイトをご確認ください。
京都御所周辺には徒歩圏内におすすめスポットがたくさんあります。