京都おすすめ散歩道

定番から穴場まで京都のお散歩コースを地元民の視点からご紹介

鳥羽離宮跡公園から城南宮へ ②城南宮 ~しだれ梅や椿が咲き乱れる神の苑

京都には桜の名所はたくさんありますが、しだれ梅の名所はあまり聞いたことがありません。そんな中、京都随一とも言われるしだれ梅の名所が城南宮です。社殿の西に広がる「春の山」では、150本のしだれ梅が薄紅色や紅白の花を咲かせ、春の訪れを告げます。特に同じ敷地に多数植えられたもう一つの名物 椿とのコラボレーションは、ここ数年SNSでも大人気です。

今回は「まいまい京都」が企画する「鳥羽離宮 枝垂れ梅と椿で一面春色、庭師とめぐる城南宮神苑~春の山から平安・室町・桃山の庭へ、史上空前規模の離宮跡~」というツアーに参加し、二回に分けてご紹介します。

2回目はいよいよ、枝垂れ梅の咲き乱れる城南宮をご紹介します。

 

「まいまい」とは「うろうろする」という意味の京ことばで、「まいまい京都」では、600人を超える各分野のスペシャリストが独自の視点でガイドする京都や近郊のミニツアーを多数実施されています。

 

京都のミニツアー「まいまい京都」

ユニークなガイドさんと京都を歩こう!「京都・春のパンまつり!かわいい町家パン屋さんの工房へ」「ブラタモリ記念、京都高低差崖会と御土居でOh!」「京都本ライターと乙女なカフェめぐり」など、全260コース。
 
今回もツアーガイドは京都生まれの三浦豊さん。庭師の視点から各地の森や庭園を案内されています。今回のツアーでも随所に庭師としての独自の視点から、鳥羽離宮跡や城南宮の見どころを案内していただきました。
 
まいまい京都の三浦豊さんの紹介ページ
 

城南宮の場所

maps.app.goo.gl

 

城南宮の行き方

電車で

 ・地下鉄、近鉄竹田駅」下車、徒歩約15分

 

 

バスで

 京都駅八条口から 

  ・らくなんエクスプレス(八条口E①乗り場)で約5分「城南宮前」下車

   徒歩5分(平日のみ運行)

  ・市バス19系統(八条口F ②乗り場)で約22分「城南宮」下車徒歩5分

   1時間に1本運行

 京都駅烏丸口から

  ・市バス19号系統(C④乗り場)で約30分「城南宮」下車徒歩5分

   1時間に1本運行

 

 

バスで行かれる場合は、本数が少ないので、行きかえり共に運行時間を確認してください。

 

このツアーの前半、鳥羽離宮跡公園の様子はこちら

www.yomurashamrock.me

 

城南宮の鳥居

今回のスタートは城南宮の西の鳥居です。

西の鳥居は氏子の寄進によって文久元年(1861)に建てられ、扁額の「城南離宮」の字は関白九条尚忠の書です。

「城南離宮」は、前回ご紹介した鳥羽離宮の別名で、白河上皇鳥羽上皇院政の拠点としました。江戸時代にはこれを城南宮の社号のように用いていました。

慶應4年(1868)正月3日の鳥羽伏見の戦いの際は、この西の鳥居と鳥羽街道を結ぶ参道に薩摩の軍勢が4門の大砲を据え、旧幕府軍を迎え撃ったそうです。

 

西の鳥居を入り、120m程進むと北側(左手)に見えてくるのが朱塗りの城南宮鳥居です。

この城南宮鳥居、よく見ると実はちょっと鳥居の常識とは違った珍しい様式だとか。

参考:魂京都「よく見ると少し変わった鳥居」

http://soulkyoto.blog.fc2.com/blog-entry-847.htmlより

 

鳥居には大きく分けると「神明鳥居(直線、直角を用いたシンプルな形)」と「明神鳥居(角度をつけて装飾的な造り)」の二つに分類されます。

上の写真の城南宮鳥居は神明鳥居に分類されていますが、明神鳥居の特徴も併せ持っています。

神明鳥居の特徴:額束がなく、貫が柱を突き抜けていない

明神鳥居の特徴:笠木と島木の二層で、笠木と島木の両端に反りあがりがある

        棟(笠木と島木)には屋根を葺いている

そして、城南宮鳥居の最大の特徴は、島木の中央、明神鳥居なら扁額のある位置に、城南宮の「日・月・星(右下の小さい丸)」の三光のご神紋が打たれていることです。

神紋の「三光の紋」は神功皇后旗印によるもので、昼夜の隔てなく、あまねく及ぶ城南宮の神徳を表すものだそうです。

城南宮とは

創立年代は不詳ですが、平安遷都に際し、国常立尊(くにのとこたちのみこと)と八千矛神(やちほこのかみ:大国主神の異名)と神功皇后(じんぐうこうごう)を祀り、以来都の南方に鎮まり国を守護する城南宮と仰がれています。

平安時代末期、白河上皇がこの地に壮大な離宮を造営して院政を開始すると、政治・文化の中心となりました。

鳥羽離宮の再現図。広大な池の中ほどにある島にあるのが城南宮

 

平家物語』の舞台でもあり、当時天皇家で盛んに行われていた熊野詣の際には、度々上皇方の方除け(ほうよけ)の精進所(しょうじんどころ)にあてられ、旅の安全が祈願されました。

今日、方除けの大社城南宮として篤く信仰され、家庭円満や厄除け、安全祈願、車のお祓いなどで全国から沢山の参拝者で賑わっています。

また、曲水の宴が行われる神苑は、しだれ梅、椿、桜、藤、躑躅、青もみじ、秋の七草や紅葉に彩られ四季を通じて草花を愛でる人が絶えません。

 

菊水若水(手水舎)

先ほどの城南宮鳥居のすぐ手前にあるのが手水舎で、こちらの水は名水「菊水若水きくすいわかみず)」という地下水が使用されているため、冬は温かく、夏は冷たいそうです。東大寺のお水取りに用いる香水は、若狭の遠敷川からこの菊水若水の下を通り、二月堂の若狭井に至ると伝えられています。

 

本殿

本日のメインイベント、神苑を訪れる前に、まずは本殿を参拝します。

こちらは本殿の前殿です。本殿・前殿・向背・翼廊からなる素木(しらき)造りの社殿は、城南宮独自の優美な佇まいです。1977年に本殿が焼失しましたが、翌1978年に再建されました。ガイドで庭師の三浦豊さんによると、前殿の前にある松の木は神が降り立つ場所、神を「待つ」場所、神が降臨する場所を意味するそうです。松は一年中青々として、岩の上でも生きられるとても生命力あふれる木なので、ここぞという聖地には松が植えられていることが多いそうです。

 

神苑(楽水苑)

城南宮の庭園「楽水苑」は、昭和の小堀遠州と讃えられた天才造園家・中根金作が造園家として最初に手掛けた京都で最も大きな庭園です。源氏物語に登場する草花80種以上が用いられ、「源氏物語 花の庭」とも呼ばれています。中根金作は、最初に「室町の庭」と「桃山の庭」を作庭、その後「平安の庭」と「春の山」を作庭し、晩年には「城南離宮の庭」を作庭、生涯をかけて城南宮の神苑の作庭に携わりました。

今回は「春の山」と「平安の庭」を見学しました。

入ってすぐのところに大きな楠が。伸び放題でぐねぐねです。楠は体があまり固くなくて折れやすいので、街中や公園に生えていると危ないので切られることが多いのですが、この場所は神社つまり神域なのでむやみ切られることが無く、楠の自然な姿が

見られるとのこと。

 

椿がずらりと植えられています。城南宮の神苑にある椿は、品種の多さでは西日本一だそうです。楽水苑は中根金作が「参拝者の憩いになるように」と作庭したもので、椿もこの時に植えられたそうです。

 

春の山

椿、枝垂れ梅、三つ葉ツツジと春の草木が次々と花開く「春の山」エリア。白河上皇は城南離宮を築く際に、『源氏物語』に描かれた光源氏の大邸宅すなわち四季の庭を備えた六条院をモデルにしたといわれ、ここ「春の山」 と対を成す「秋の山」が、前回ご紹介した通り、国道を隔てた西側に広がる史蹟「鳥羽離宮跡公園」内にあります。

ここ春の山も千年前からあった地形であり、この地形を生かし中根金作が手を入れ、非常に経営が苦しかった城南宮の目玉として、しだれ梅を植えたそうです。京都には桜の名所が沢山ありますが、しだれ梅の名所は無かったためだそう。非常に巧妙なブランディング戦略であったのです。

白梅と紅梅が絶妙なバランスで植えられ、何とも華やかですね。前日の雨で散った花びらが絨毯のように広がり、鮮やかさが増しているように見えます。

写真左端の燈篭の横に小さな滝があります。わざと高低差をつけて石を配置し、水の音が反響するようにしているそうです。日本庭園では水の音をとても大切にしていて、水蒸気によってその場を清めているという意味があるのだとか。

しだれ梅は梅の突然変異種です。枝の成長が非常に早いので、枝が垂れているそう。しだれ梅だけでなくしだれ桜もそうですが、特徴としては非常に風に強いとのこと。台風の多い日本のような地域では生きていくのに有利で、突如現れる品種だとか。梅や桜だけでなく、シダレエノキやシダレアンズなどもあるそうです。

 

春の山では、地形を生かして、わざと道をくねくねと曲げているそうです。参拝者の視線も左右に振られ、一足ごとに見える景色が変わり趣き深いですね。

 

春の山を更に奥へと進むと、薄暗く苔むしたエリアに椿が沢山咲いています。そしてその向こうには、しだれ梅のカーテンが…苔の上に落ちた椿の花は、掃除せずにわざとそのままにされているとか。苔の緑、椿の赤、そしてしだれ梅のピンク色が得も言われぬ幻想的な美しさ!参拝者がこぞってカメラを向けているスポットです。

 

なぜこちらに椿が多く植えられているかと言えば、椿は「木偏に春」、そしてここは「春の山」ということで、春つながりで椿が多数植えられているのだそうです。

薄暗い苔の上に落ちた赤い椿の花が妖艶な美しさですね。

椿というと、花びらが一枚一枚落ちるのではなく、花ごとポトリと落ちますね。この理由は、花びら一枚一枚がしっかりくっついていると花が強くなり、開花期間が長くなるためです。椿は寒い時期に咲き、受粉を助ける動物たちの活動も弱い時期なので、開花期間をなるべく長くするためなんですね。ちなみに花は筒のように落ちますが、真ん中にある受粉した雌しべはちゃんと木に残っていて実は落ちないそう。自然の営みは本当にうまくできていますね!

椿の木の根が地表の表れているのは、ご神域でいつも地面を箒で掃き清められているからです。土が洗われて根っこが露わになっているのだそう。ご神域ならではの風景なのですね。

 

苔むした椿の森を抜けると、本殿の裏手に出ます。こちらには赤松が植えられています。神苑に入る前に参拝した本殿の前殿には黒松が植えられていました。海岸沿いに生えるので波しぶきや海風に耐えるため、葉も固く、非常に猛々しく力強いので「雄松(おまつ)」と呼ばれます。対して京都の周辺に生えているのは、ほとんどが赤松です。葉が柔らかく、海風に耐える必要も無いので、柔らかい図形になりやすく「雌松(めまつ)」と呼ばれます。パワーあふれる松の雄と雌を植えることによって、この神社の繁栄、今後も神様の顕れるパワーを宿す聖地としてあり続けるようにという祈りがこめられているのだそう。参拝者はしだれ梅を見に来るので、全て梅を植えても良さそうなものですが、神域としての節度も大切にされるところが、神社の尊いところだと三浦さんは話されていました。

そしてこちらには七本の松の木が植えられています。七と言えば北斗七星、城南宮は方除けの神様なので、方角を指し示す北斗七星を松で表しているとか。松の木の数にもちゃんと意味があるのですね!

 

平安の庭

さて、春の山を後にして、次に向かったのが「平安の庭」です。

平安時代の貴族の邸宅、寝殿造の庭をモデルにしています。庭を広く見渡すと、寝殿造を模した神楽殿から木々の影を映す池に続きます。この池には中ノ島があり、階段状の滝から清流が注ぎ、二筋の遣水(やりみず・小川)が流れています。

現存する平安時代の庭は大覚寺平等院の庭園など数えるほどですが、中根金作が戦後になって、平安時代の庭園をモデルとして、ここ「平安の庭」を再現しました。その特徴は、川の流れが曲がっている(曲水、または遣水)、それから石組は群れている犬が伏せているような優しい石組みです。これは平安時代に出来た『作庭記』~自然の状態に抗うことなく庭造りをしなさいという世界最古の庭づくりの秘伝書~に従っているそうです。

 

京都の他の池には無い特長として、こちらの池の水はみんな地下水です。だから水が澄み切っています。

 

更に進むと王朝の雅を偲ばせる曲水の宴が催される苔の庭が広がっています。画面の右端にほんの少し写っているのが、今年から平安の庭にも植えられたというしだれ梅です。

 


今回のツアーはここまでです。

城南宮の神苑は本当はこのほかに「室町の庭」「桃山の庭」「城南離宮に庭」という三つの庭もあるのですが、しだれ梅で参拝者の多いこの時期は、残念ながら閉鎖されています。

中根金作が最晩年に作庭した「城南離宮の庭」は、城南宮の一帯が最も華やかであった平安時代後期の様子を表す枯山水の庭園だそうです。ちょうど、今回のツアーで鳥羽離宮跡公園の秋の山から城南宮へと歩いてきたその全貌を枯山水で表したものと言え、本来ならこのツアーのまとめとして是非訪れたかったと三浦さんもおっしゃっていたのですが…他の季節も様々な草木で彩られ大変美しいとのことなので、また別の時期に訪れてみたいと思います。

今回のツアー①と②を通して、三浦さんの庭師としての知識と視点が満載のとても興味深いツアーでした。今までは、何故この場所にこの木や花がこのように植えられて(あるいは生えて)いるのか、という観点で植物を見るということがありませんでした。今後他の庭園や寺社仏閣を訪れる際にも、このような視点を持って見てみると、また新たな発見がありそうです。