嵐山のランドマーク、渡月橋からほど近い場所に3年前に出来た福田美術館。これまで
京都画壇を中心に江戸時代から近代にかけての多くの名品を紹介してきましたが、開館3周年記念として「福美の名品展」~まだまだあります未公開作品~が10月10日まで開かれています。同館が所蔵する秘蔵の名品が鑑賞できる絶好のチャンスということで訪ねてみました。
福田美術館の場所
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福田美術館の行き方
「嵯峨嵐山駅」下車 徒歩12分
「嵐山駅」下車 徒歩11分
「嵐山駅」下車 徒歩4分
京福電鉄嵐山駅からの行き方は以下のブログをご確認ください。
今回のスタートは、上記ブログでご紹介し、同じく渡月橋からほど近い嵯峨嵐山文華館です。
この道を300mほど東へ向かいます。ちょうど渡月橋の方向を目指して進むことになります。
いつもたくさんの人が並んでいるカフェ「アラビカ京都嵐山」が左手に見えたら、その脇の道を北(左)へ曲がります。
福田美術館に到着です。同館の前の道が狭く、向かいのホテル「MUNI KYOTO」の入口付近から撮った写真ですが、下から見上げた写真になってしまいました。
福田美術館とは
福田美術館は、美しい自然とともに日本美術の名品を楽しんでいただくことで、京都・嵯峨嵐山が日本文化の新たな発信拠点になることを目指して、2019年10月に開館されました。
同館のオーナーは、消費者金融大手 アイフルの創業者である堀田吉孝、館長は娘の川畑光佐が務め、「100年続く美術館」をコンセプトに、「地元京都への恩返しがしたい」という思いから設立されました。所蔵点数は約1500点、琳派から円山四条派、京都画壇の作品を中心にしています。
福田美術館の建築は、東京工業大学教授 安田幸一が担当。外観は伝統的な京町屋のエッセンスを踏まえたデザインとなっており、内部は蔵をイメージした展示室や、縁側のような廊下など、日本的な意匠を盛り込んでいます。また、展示室のガラスケースには、92%の高透過率を誇るドイツ製のガラスを採用し、継ぎ目の少ない巨大ガラスと、日本画を鑑賞するのに最適なライティングによって、より良い鑑賞体験を提供しています。
さっそく入っていきましょう。
日本画がメインの美術館ですが、内部はとてもスタイリッシュで現代アートの美術館のような雰囲気です。階段を上がります。
第一展示室
階段を上がったところがGALLERY1(第一展示室)になります。
第一章では、横山大観を始め、川合玉堂、山元春挙、上村松園といった東京、京都画壇で活躍した近代画家や、戦後日本の画界に新たな境地を拓いた東山魁夷、秋野不矩、杉山寧ら現代画家の名品の中から同館未公開作品を中心に紹介されています。
富士図 横山大観
まず目に飛び込んでくるのが、大きな富士山を描いた屏風画です。大観と言えば富士山と言うほど、たくさんの富士山を描いていますが、その中でも六曲一双のこの作品は大作の一つだそうです。写真だとそのスケールが伝わりづらいのが残念ですが、近くで見ると布のような厚手の紙に描かれた雲はボコボコとした立体感が精密に表現され、その奥の富士山の壮大さを際立たせています。
慈悲光 杉山寧 (画像;福田美術館公式サイトより)
奈良県の室生寺の十一面観音像と十二神将の一部が描かれた若き日の杉山寧の大作で、35年ぶりの公開だそうです。深い慈しみを讃え、女性的な優しさが漂う観音像の姿に、平安時代からずっと衆生を救い見守ってきた霊的なものまで表現しようとした杉山の意気込みが読み取れます。画面左下と右上に描かれた蛾も、霊的なもの、魂のようなものを表現するために杉山が描き加えたのだそうです。
廃墟 秋野不矩
秋野不矩(あきの ふく)は静岡県浜松市出身で、結婚後は6人の子どもの育児と画業を両立した女性で、私が大好きな日本画家のひとりです。ふわふわとした独特の色彩やタッチが日本画とは思えない不思議な味わいがあります。秋野は54歳でインドに魅せられ93歳で亡くなるまでに10回渡印。この作品は7回目のインド旅行で目にした廃墟を描いたもののようです。廃墟と思われる建物の入口付近から、隣の建物の外壁を捉えた構図で、室内と室外の光の表現が巧みに描き分けられています。インドの強い日差しと素朴な石像の感じが秋野らしい優しいタッチで描かれていますね。
静けき朝 東山魁夷
長野県の志賀高原にある三角池(みすまいけ)を題材に、青を基調とした清らかで深みのある、東山魁夷らしい作品。穏やかな湖面に映った木々のリフレクションが、現実と心象風景の融合したような幻想的な風景を作り出しています。
孤鳥報朝・農夫晩帰 西郷孤月
右の「農夫晩帰」は夕闇迫る中、家路につく農夫が寺の鐘の音に足を速める様子。左の「孤鳥報朝」は朝霧の中から聞こえる鳥の声を想像させます。空気まで描こうとする朦朧体(もうろうたい)に加え、本来絵画では表しにくい「音」を表現した驚くべき技量と感性が光る一作。霞がかかったような淡い色合いの幻想的な絵から、響き渡る鐘の音や鳥の声が聞こえてくるようで、より絵の中の世界の静けさが際立つ印象的な作品です。
花下美人図 上村松園
しだれ桜のもとを歩む、すらりとした女性。ややうつむいて扇子をかざし、日に日に強くなるまぶしい陽射しを遮りつつ、過行く春を惜しむようです。
上村松園は「美人画を描く上でも一番難しいのは眉」と語っていたそうです。この作品でも毛の一本一本を丁寧に引き重ね、太すぎも細すぎもせず、自然なカーブに仕上げています。空色の着物と鮮やかな赤い帯が白い肌に映え、丁寧に描かれた眉美人の上品な美しさをより一層引き立てていますね。
第二展示室
階段を上がり、GALLERY2(第二展示室)に向かいます。
第二章では、新しい日本画の創造の場を求めて1918年に「国画創作協会」を設立した、京都画壇の新鋭画家たち土田麦僊や榊原紫峰、村上華岳、野長瀬晩花、小野竹喬や、没後50年の美人画の巨匠である鏑木清方、その弟子の伊藤深水らの作品を展示。
さらに1923年に刊行された近松門左衛門の作品集「大近松全集」の付録となった版画13点とその原画5点を通して、当時を代表する日本画家と洋画家の取り組みが紹介されています。
国画創作協会
既存の日本画の枠を超え、新たな創造の場を求め、新進気鋭の日本画家たちが設立したのが「国画創作協会」です。本展では京都画壇の村上華岳や小野竹喬、土田麦僊、入江波光らの作品が展示されています。
小野竹喬 河口近く
紅葉した木々、穏やかな水面、中景の険しい山が左から差し込む夕日に照らされ、美しく映じています。本作は小野竹喬が国画創作協会を結成した20代に描かれたもので、日本画でありながら、西洋画のような鮮やかな色合いが若き日の竹喬の意欲を感じさせる作品です。
村上華岳 雲中散華
村上華岳も、絵画専門学校時代の同期生土田麦僊や小野竹喬らと国画創作協会を結成。独自の宗教的・文学的な味わいのある作風を展開します。
華岳は最晩年、持病の喘息が悪化し床に臥す日が増える中、仏画と山水画に集中し、独自のやわらかで深みのある画境に到達していきます。本作も最晩年の作で、慈愛に満ちた表情の観音が、天上を飛翔しながら散華する様子が描かれています。淡く優しい色合いと繊細で柔らかなタッチの線で描かれた観音像は、それまでの仏画とも違う、華岳独特の世界観が感じられます。
大近松全集
西村五雲 朝比奈
大正11年頃、近松門左衛門没後200年に合わせて『大近松全集』が刊行。各刊には名だたる画家が戯曲を題材にした原画を描き、それに基づく版画が付録として添えられました。本展では付録となった版画やその原画が展示されています。
本作は第6巻の付録となった版画の原画で、戯曲「世継曾我」が題材。曾我兄弟が父の仇を取ったのち殺害されたことを知り、復讐を決意する曽我兄弟の親戚朝比奈を模した浄瑠璃の人形が描かれています。歌舞伎のような隈取りのあるユーモラスな顔と赤、黒、青の色鮮やかなコントラストが印象的です。
西村五雲は明治10年(1877)京都生まれの日本画家で、竹内栖鳳に師事し、動物画を得意としました。
パノラマギャラリー
最後は「又造の部屋」と題した、加山又造の作品9点を展示したパノラマギャラリーです。加山は西陣の和装図案家の家に生まれ、幼い頃から画才を発揮。京都市立美術工芸学校、東京美術学校へと進学します。本展では、江戸琳派に傾倒した若き日から水墨画に転向した後期の作品まで、画風の移り変わりが分かるように展示されています。
飛翔 加山又造
荒波の上を五羽の鶴が飛翔する場面。波と鶴の取り合わせは着物の文様でも良く見られ、長寿を意味します。装飾的に表された銀色の波からは、江戸の琳派の影響なども感じさせ、その上に飛ぶ五羽の鶴は非常に写実的な現代画風で、近代絵画と現代絵画が絶妙に調和した作品です。
ここ福田美術館から北西に300mのところにある、世界遺産 天龍寺。境内の伽藍の一つ法堂の天井には、加山又造の「雲龍図」が描かれています。こちらは平成9年の天龍寺開山夢窓国師650年遠諱記念事業として制作され、加山又造70歳頃の晩年の渾身の作品です。ちょうど私と同じタイミングに「又造の部屋」で鑑賞されていた方の中に「ここから近いから見に行ってみようかな」という方もおられました。
パンとエスプレッソと福田美術館
館内には、来館者限定のミュージアムカフェ「パンとエスプレッソと福田美術館」があります。
美術館敷地内の庭園や木々の緑を映す大きな水盤、さらにカフェから見える保津川や渡月橋の美しい景色を眺めながら、ゆったりとお茶やスイーツを楽しむことができる、何とも贅沢な空間です。
3周年を記念した季節限定の「マンゴープリンパフェ」をいただきました。紅茶にピントが合っていますが…
☆来館者専用のカフェのため、カフェのみの利用は出来ません。
福田美術館は、美しい嵐山の風景に溶け込む外観と、スタイリッシュな内装で、日本画のすばらしさを再発見できる新しいコンセプトの美術館だと思いました。ミュージアムカフェも落ち着いた雰囲気で、美術鑑賞した後の余韻にゆったり浸れます。嵐山観光と合わせて利用してみてはいかがですか?
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