観光名所嵐山からほど近い奥嵯峨に、紅葉の名所として有名な祇王寺があります。すぐ近くの二尊院と並んで、紅葉の美しさは京都でも有数ですが、実は秋の紅葉だけでなく、他の季節にも息を飲むほどの神秘的な美しさがあります。
紅葉にはまだかなり早い10月初旬、そんな祇王寺の魅力を探りに訪ねてみました。
祇王寺の場所
祇王寺の行き方
・電車で
①JR嵯峨野線
「嵯峨嵐山駅」下車 徒歩25分
「嵐山駅」下車 徒歩25分
・市バスで
①四条河原町から
市バス11番(山越中町行)乗車(約50分)
「嵯峨小学校前」下車 徒歩17分
市バス91番(大覚寺行)乗車(約45分)
「嵯峨釈迦堂前」下車 徒歩15分
③阪急嵐山駅から
市バス28番(大覚寺行)乗車(約10分)
「嵯峨釈迦堂前」下車 徒歩15分
嵯峨嵐山駅から徒歩25分ほど歩き、竹林や落柿舎、二尊院などを経て、小倉山の麓の坂道を登ると、祇王寺まではもうすぐです。
小さく「祇王寺」と書かれた木の案内板がありました。もうすぐでしょうか。
案内板に従ってまっすぐ進みます。
坂道はまだ続きます。
右手には「檀林寺」の案内板があります。さらに坂道を登って行きます。
檀林寺の門の前あたり、坂の途中に、なぜか「祇王寺←→大覚寺 歩きマップ」という地図がありました。嵯峨、嵐山周辺にはたくさんの寺院がありますが、なぜこの二つの寺院を一緒に巡るのでしょうか?
急な坂を上り切った先に祇王寺がありました。竹林と青紅葉に囲まれたつつましやかな趣きある入口です。
祇王寺とは
祇王寺は往生院祇王寺と号する真言宗の寺院です。寺伝によれば、この地は平安時代に開創し、後に祇王寺と呼ばれるようになったそうです。
平家物語によれば、祇王は平清盛に寵愛された白拍子でしたが、若い仏御前の出現により清盛の心が離れてしまったので、母刀自(とじ)、妹祇女と共に出家し、当地に移り住みました。後に「いつかわが身も同じ運命」と悟った仏御前も旧怨を捨てた祇王母子に加わり、4人で念仏三昧の余生を送ったと伝えられています。
現在の本堂は、明治28年(1895)に再建されたもので、堂内には、本尊大日如来像をはじめ、平清盛と祇王ら四人の尼僧像を安置しています。
さっそく祇王寺に入って行きましょう。
こじんまりとした茅葺の門も苔むしていて、何とも趣きがあります。
祇王寺と大覚寺
拝観料を払い、境内へ入りましょう。と、拝観受付で気づいたのですが、大覚寺と祇王寺には深い関係がありました。
祇王寺は昔の往生院の境内にあり、往生院は法然上人の門弟良鎮によって創建されたと伝わっています。山上山下にわたって広い寺域を占めていた往生院も後年は荒廃し、ささやかな尼寺として残り、後に祇王寺と呼ばれるようになりました。
明治初年に祇王寺は廃寺になりましたが、残された墓と仏像は旧地頭の大覚寺によって保管されました。大覚寺門跡の楠玉諦師はこれを惜しみ、再建を計画していました。その時、元京都府知事北垣国通氏が祇王の話を聞き、明治28年(1895)に嵯峨にあった別荘一棟を寄付されました。これが現在の祇王寺の建物です。これらの関係から、祇王寺は真言宗大覚寺派の寺院で、旧嵯峨御所大本山大覚寺の塔頭寺院ともなっています。このため、祇王寺・大覚寺(2カ寺)共通拝観券があり、祇王寺300円、大覚寺500円ですが共通拝観券は600円となっています。こんな関係から、先ほどの祇王寺と大覚寺を結んだ案内地図があったのですね。
緑したたる苔の庭
境内に一歩足を踏み入れると、そこは柔らかい木漏れ日の中で竹林と青紅葉に囲まれ、緑したたる苔で覆われた、息をのむほどに神秘的な美しさに満ちた静かな世界でした。
10月とは言え30度を超すほど暑い日もあり、紅葉はまだまだ先のようですが、苔むした緑の庭の美しさに出会えるこの時期に、祇王寺を訪れたことは本当に幸運に感じました。
東山魁夷と川端康成の友情から生まれた絵画
順路に従って一旦、この茅葺の門を出て左へ進みます。
茅葺の門の内側に興味深い展示がありました。
一番上の「行く春」という絵画は東山魁夷が、祇王寺の苔庭に落ちた桜の花びらを描いた作品です。文豪 川端康成は「京都を描くなら今のうちに」と、急速な近代化で変貌する京都の町の姿を絵の中にとどめて欲しいと東山魁夷に勧めたそうです。この二人は不思議な縁で結ばれていました。明治生まれの二人の出会いは、中年を過ぎた昭和30年ごろで、友情は昭和47年に川端が亡くなるまで続きました。面白いことに川端は少年時代に画家を志し、一方の東山も文学に傾倒した時期があったそうです。また、ともに早くに肉親を亡くした孤独感を抱えてており、そんなことも二人の結びつきを深めたのかもしれませんね。
一旦、茅葺の門を出て順路に従って左へ進みます。
再び苔の庭へと入って行きます。
フタバアオイ
更に奥へ進むと、苔の庭に「フタバアオイ」が固まって生えていて、説明書きがありました。
テレビ時代劇などでおなじみの「この紋所が見に入らぬか?」という徳川家の三つ葉葵の紋所は、フタバアオイの葉三枚を組み合わせたものと言われています。フタバアオイは5月15日に賀茂御祖神社(下鴨神社)と賀茂別雷神社(上賀茂神社)で行われる京都三大祭の一つ「葵祭」の飾りつけに用いられるため、カモアオイの別名もあります。
フタバアオイの通常の葉の数は2枚だそうです。3つの葉をもつフタバアオイは稀で、三つ葉葵は架空のもののようです。
苔いろいろ
祇王寺内には20~30種類もの苔が植わっているそうです。代表的なものがこの説明書きで写真と植わっている位置が示されています。
下の苔の写真は右からハイゴケ、シノブゴケ、スギゴケ、ヒノキゴケ、コツボゴケ、のようです(一応ネットで調べてみましたが、いまいち違いがわかりません)
縁起の良い赤い実いろいろ
赤い実がなる植物の中で、「両」の名前が付くお正月に重宝されるおめでたい植物と言えば、万両、千両が有名ですが、そのほか一両、十両、百両もあるようです。
だいたい秋から冬に赤い実をつけるので、まだ暑い10月ではどれも実はともかく花も咲いていませんが、それぞれ別の種類の植物だそうです。
祇王の歌碑
『平家物語』に書かれている、祇王が清盛のもとを去る時に、屋敷の襖に書き付けたとされる歌の歌碑です。
「萌え出づる 枯るるも同じ 野辺の草 いづれか秋に あはではつべき」
芽生えたばかりの草も枯れようとする草も、野辺の草は結局みな同じように、秋になると枯れ果ててしまうのです。人もまた、誰しもいつかは恋人に飽きられてしまうのでしょう。
祇王の悲しい恋と世の無常をつづった歌に胸が痛みます。
草庵
写真:祇王寺公式サイトより
ひっそりと佇むかやぶき屋根の草庵。中には祇王、祇女、刀自、仏御前ら五人の木像が安置されている仏間があり、吉野窓から外の景色を眺めることもできます。
仏像
写真:祇王寺公式サイトより
草庵の中の仏間には、本尊大日如来、平清盛、祇王、祇女、母刀自、仏御前の木造が安置されています。祇王、祇女の像が鎌倉末期の作で、その時代に特徴的な手法であった水晶(玉眼)が印象的です。
吉野窓
草庵の奥の間の大きな窓を吉野窓と言います。境内の緑葉を通って差し込む日差しが障子に色とりどりの色彩を映し出すことから「虹の窓」とも呼ばれています。窓からの景色ももちろん美しいのですが、部屋から眺めるこの窓自体が幻想的な光を放つフォトジェニックな佇まいです。
藤袴とアサギマダラ
この草庵の入口に藤袴の鉢植えが並べられていて、そこにアサギマダラという蝶が何匹も集まって蜜を吸っていました。
秋の七草の一つである藤袴(フジバカマ)は、吸蜜のためにたくさんの蝶が集まることでも知られています。
アサギマダラなど一部の蝶は、藤袴の花に含まれる、ピロリジジンアルカロイドの一種を摂取する必要があります。これらの蝶にとって、ピロリジジンアルカロイドは雄が雌を誘うフェロモンを作るのに必須の物質だからです。
実は一週間前に藤袴で有名な中京区のお寺「革堂行願寺(こうどうぎょうがんじ)」へ行ってきたところなのです。この時はアサギマダラの姿は見かけたものの、とてもシャイな蝶だったのか藤袴で蜜を吸う姿を写真に納めることが出来ませんでした。アサギマダラの美しさに魅せられた私は、写真を撮れなかったことが大変心残りでした。そんな折、たまたま祇王寺の公式サイトでアサギマダラが集まっていると知り、これは是非見に行かねば!と意気込んで、祇王寺を訪ねたという訳です。私はスマホしか持っていないので、アサギマダラの美しさをきちんと伝えられるような写真は撮れなかったのですが、それでも時を忘れ藤袴とアサギマダラの競演を堪能することが出来、必死で坂道を登った甲斐があったと満足感でいっぱいになりました。
水琴窟
草庵の入口に水琴窟があります。涼し気な音が緑の中に溶け込み、疲れた心を癒してくれます。
宝篋印塔
向かって左の宝篋印塔が祇王、祇女、刀自のお墓で、右の五輪塔は平清盛の供養塔で、いずれも鎌倉時代に作られたものだそうです。時の権力者に翻弄された悲恋の物語の主人公たちも、今は静かにこの地を見守っているのですね。
祇王寺祇女桜
京都 円山公園のしだれ桜の桜守りで有名な佐野藤右衛門が、京都市右京区・嵯峨の中院に自生していたものを発見し、祇王寺の庭に移植したもので、祇王の妹祇女に因み、佐野が「祇王祇女桜」と命名しました。
緑したたる苔庭で優雅なひとときを過ごせる祇王寺
祇王寺は境内をぐるりと歩いて回っても20分もかからないほどの小さなお寺です。しかし、竹林と楓にかこまれたこちらのお庭は、木漏れ日の優しい光が苔庭の瑞々しい緑を照らす神々しいまでの美しさをたたえています。さらに、この時期は藤袴に群れ飛ぶアサギマダラも見られ、何とも優雅なひとときを過ごすことが出来ます。
もちろん、紅葉の時期は青々とした苔庭に楓の紅葉が映えて錦秋の名にふさわしい美しさです。
嵯峨嵐山駅からは徒歩25分は結構な距離ですが、道中は落柿舎周辺ののどかな田園風景や竹林、嵯峨野らしい閑静な住宅街やお土産物屋さんなどもあり、飽きることはありません。坂道を登ることもありますので、歩きやすい服装や靴でお越しください。
嵯峨嵐山周辺は他にもお散歩スポットがたくさんあります。
渡月橋の西にある穴場スポット亀山公園↓
亀山公園の向かいにある絶景寺院 大悲閣千光寺↓
亀山公園の近くの日本画の美術館 福田美術館↓
福田美術館の近くの、百人一首や日本画の美術館 嵯峨嵐山文華館↓
日本で唯一の髪の神社 御髪神社↓