嵐山の渡月橋から西へ徒歩5分ほど、風情のある料亭や旅館の立ち並ぶ先にあるのが嵯峨嵐山文華館です。こちらは百人一首をテーマとした常設展に加え、年に4回の企画展を実施。現在は10月10日まで「どうぶつ美術館」と題し、日本画にしばしば登場する「動物」をテーマに、作品が制作された背景にも触れながら、様々な動物画を紹介しています。日本画というと、ちょっと古臭いようで馴染みが薄いと思われるかもしれませんが、身近な動物を題材にした日本画の数々は素直に楽しめました。嵐山観光のついでに足を運んでいただければと思い、ご紹介します。
嵯峨嵐山文華館の場所
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嵯峨嵐山文華館の行き方
・JRで
「嵯峨嵐山駅」下車 徒歩14分
・阪急で
嵐山線「嵐山駅」下車 徒歩13分
嵐山本線「嵐山駅」下車 徒歩5分
今回のスタートは、京福電鉄嵐山駅です。
駅を出たら南(左)へ向かいます。
駅前を南北に走る「長辻通り」を南へ進みます。
前方に渡月橋が見えたら、その手前を西(右)へ曲がります。
渡月橋の手前を右へ曲がったところです。写真左手に見えているのが保津川です。保津川沿いを西へ進みます。
進行方向左手、保津川の向こうに見えているのが嵐山です。9月末だったので、紅葉にはまだ早いですね。
保津川沿いを200mほど進むと、右手に見えるのがホテルMUNI KYOTOです。その端に「福田美術館」の小さな看板が出ていますが、今回は福田美術館は後回しにして、このまま保津川沿いを更に西へ進みます。
老舗の料理旅館や料亭などを通り過ぎ、更に200mほど進み、突き当りを北(右)へ曲がります。
嵯峨嵐山文華館に到着です。
嵯峨嵐山文華館とは
藤原定家が小倉百人一首を選んだ地、小倉山のふもと、嵐山の渡月橋の近くに、百人一首をテーマとした展示、振興のために2006年に開館した「百人一首殿堂 時雨殿」を改装し、2018年11月にリニューアルオープンしたのが「嵯峨嵐山文華館」です。こちらは小倉百人一首の歴史やその魅力と、日本画をはじめとする京都ゆかりの芸術・文化の粋を伝えるミュージアムとして開館されました。
建物は一階、二階が展示スペースとなっており、一階は常設展示「百人一首ヒストリー」と企画展スペース、二階は企画展を開催する120畳の畳ギャラリーとなっています。日本の美術品・工芸品は本来、畳に座って見るものであることから、敢えて作品の位置が低い展示ケースを採用したそうです。競技かるたや講演会などのイベントも畳ギャラリーで開催されます。
では、さっそく入っていきましょう。
嵯峨嵐山文華館では、チケットにQRコードが印刷されています。
これを各展示室の入口にある読取機にかざして入室します。
ゲートが開いて中へ入れます。
館内の展示は、「撮影不可」の表示があるもの以外は撮影OKです。
1階の展示室奥には常設展示「百人一首ヒストリー」があります。
常設展示については以下のブログで詳しくご紹介しています。
どうぶつ美術館
日本画にしばしば登場する「動物」。鹿や狸など身近に生息する野生動物や、牛や馬など家畜として人の生活を支えてきた動物を観察しながら、動くいきものの姿をいかに表現するかということは、古来多くの画家が取り組んできたテーマでした。本展覧会では、動物が描かれるようになった背景や、画家を魅了した様々な動物画が紹介されています。
猫と子犬 長沢芦雪
大人の猫が兄弟と思われる3匹の子犬の子守りしているような、ほのぼのとした作品。長沢芦雪は京都の淀で育ち、写実的な画風で知られる円山応挙に入門。20代からは応挙とは違う画風を追求していきます。
仔猫図 大橋翠石
大橋翠石は岐阜県大垣市に生まれた画家。虎や猫の絵を得意とし、生前には東西日本画壇の重鎮であった横山大観や竹内栖鳳に並ぶほど高い評価を得ていました。
3匹の西洋の猫とバラの取り合わせが、モダンな感じで、バラが猫のかわいらしさを引き立てていますね。
竹雨 木谷櫻谷(このしまおうこく)
木谷櫻谷は「狸の櫻谷」と呼ばれるほど狸の絵を沢山描きました。狸のフワフワとした毛がとてもリアリティがあり可愛らしく、櫻谷の狸への愛を感じます。雨で濡れて霞がかかった竹林から狸がひょっこり現れて、櫻谷に見つかり足を止めて逃げようか迷っている…そんな場面が想像できるコミカルで幽玄でもある不思議な作品ですね。
群蝦蟇図 松本奉時
松本奉時は18世紀に大坂で表具屋を営み、蛙をこよなく愛し、珍しい蛙や蛙に関する器物を蒐集していました。本作は奉時が集めていた異様な姿を模した蝦蟇(がま)の絵を、嵩石(すうせき)という人物に見せるために模写した作品です。蛙の表情やしぐさ、肌の質感までリアルに表現され、蛙への愛が感じられますね。
高原之鷲 西村五雲
西村五雲は京都市下京区に生まれ、岸竹堂、竹内栖鳳に師事した画家です。動物画の名手として活躍しました。
大きな屏風の右と左に描かれた鷲は、違う種類の鷲だそうです。向かって左の鷲は戸惑っているようにも悲しそうにも見え、右の鷲たちは左の鷲をうさん臭そうに眺めているようにも見え、表情の違いの背景にある物語を色々と想像したくなる作品です。
秋野孤鹿 木島櫻谷
先ほども登場した木島櫻谷は京都市中京区で生まれた画家。とりわけ動物画に妙技を示し、狸だけでなく鹿など身近にみられた動物も多く描きました。
この鹿の何とも言えない優しい眼差し!目が釘付けになりました。
1階の展示を見終えたので、二階へ向かいます。
二階の入口にも入場券の読み取り機があり、券のQRコードをかざして、中へ入ります。
二階は土足厳禁なのでゲートの中で靴を脱いで入ります。
二階の畳ギャラリーは120畳の大広間の周辺に、畳に座って絵画を鑑賞できるよう、敢えて作品の位置が低い展示ケースが設置されています。
韃靼人狩猟図 幸野楳嶺
入ってすぐのところに展示された屏風画の大作です。
韃靼人(だったんじん)とはモンゴル高原に住む遊牧民の呼称で、右隻には馬に乗って狩りをする勇ましい姿、左隻には紅葉した木のもとで休息をとる様子が描かれています。馬の力強い体つきや躍動感、鞍などの色鮮やかな飾りから、馬が人々に大切にされてきた様子も細やかに表現されています。
幸野楳嶺は京都の新町四条の生まれ。近代美術教育の先駆けでもある京都府画学校(現京都市芸術大学)の設立にも携わりました。
春園閑興図 木島櫻谷
春の穏やかな日差しのもと、戯れる3匹の雀と、その様子を見上げる洋犬。木島櫻谷が実際に飼っていたイングリッシュ・ポインターをモデルにした作品。雀たちの愛らしい様子をみつめる洋犬の優しい眼差しは、それらに向けた櫻谷の眼差しなのかもしれませんね。
紅梅猫児 川合玉堂
川合玉堂は人々の生活風景や、四季折々の豊かな自然に取材した作品を多く残しました。その中には、しばしば動物も描かれており、本作では老梅の下でくつろぐ三毛猫の様子をとらえています。猫の表情が凛として、とても美しく、直線的な梅の枝と柔らかい猫の毛の質感の対比が面白い作品です。色合いも柔らかく早春の雰囲気が感じられますね。
孔雀図 横山清暉
横山清暉は京都の生まれで、四条派の祖である呉春とその弟の松村景文に絵を学びました。寛政年間(1789~1801)孔雀を観察しながらお茶を楽しむ「孔雀茶屋」が流行し、京都では祇園や清水寺の前でも見られたそうです。今でいう「孔雀カフェ」ですね。江戸の絵師たちが好んで孔雀を描いたのも「孔雀カフェ」などで見慣れていたからかもしれませんね。
春郊放牛図 竹内栖鳳
竹内栖鳳は京都市中京区に生まれ、幸野楳嶺に師事。動物画の名手として知られます。本作に描かれた穏やかな牛の表情は哲学的ですらあり、そんな牛の表情を読み取った栖鳳の牛への深い理解と愛情に感服です。
畳ギャラリーの外の廊下には、窓に向かって椅子が並び、保津川や渡月橋などの景色をゆっくりと眺めることが出来ます。
写真:嵯峨嵐山文華館公式サイトより
再び一階に戻ってきました。庭に面したテラス部分にはカフェ「嵐山OMOKAGEテラス」を併設。こちらのカフェは美術館を利用しなくても、カフェだけの利用が可能なので、紅葉シーズンなど嵐山が混雑する時期の穴場カフェとしても活用できそうですね。
嵯峨嵐山文華館は、カフェや二階の廊下から眺める庭園や保津川沿いの景色がすばらしく、今までは少し敷居が高かった日本画を気軽に楽しめる開放的な雰囲気が気に入りました。嵐山観光の目的地の一つに加えてみてはいかがでしょうか。
次回はすぐ近くの福田美術館をご紹介します。
昨年福田美術館を訪れた時のブログはこちら
嵯峨嵐山周辺の見どころはこちら