京都市京セラ美術館開館90周年展として開催された「村上隆もののけ京都」展は、現代美術の最前線で活躍する村上隆の、国内では約8年ぶりの大規模個展です。
本記事は以下の続きになります。
この展覧会は9月1日で終了しています。
京都市京セラ美術館の場所
https://maps.app.goo.gl/cyAcz9dQErwvpTiz5
京都市京セラ美術館の行き方
地下鉄東山駅からの行き方は以下で詳しくご紹介しています。
今回は同展の第4室以降をご紹介します。
第4室 風神雷神ワンダーランド
風神雷神図
「琳派」を代表する俵屋宗達の『風神雷神図屛風』①(国宝・17世紀)は、琳派たるものこれを描かなければいけない、という感じで二代目尾形光琳②も三代目酒井抱一③も四代目鈴木其一④も描いているし、明治以降、琳派ではない画家が風神雷神図を自分流に描くのが流行ったことがあります。
上記のように尾形光琳、酒井抱一は俵屋宗達の風神雷神図屛風と同じような感じで描いていますが、鈴木其一はガラッと変え、墨絵のように、しかも屏風ではなく襖に描くという自分のスタイルに変えているように、それ以降、近代以降は自分の好きなようにアレンジしている画家が多く、その流れの最終形が村上のこの風神雷神図だそうです。つまり、風神雷神図を現代アートとして捉え、しかも村上イズムで描くとこういう風に、ちょっとゆるキャラっぽく描かれているのがとても印象的でした。
村上隆『風神図』
村上隆『雷神図』
(参考:you tube 掛軸塾 村上隆「もののけ京都」徹底解説 @ 京都市京セラ美術館 )
雲龍赤変図《辻 惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いてみたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》
今回の展覧会の中で、私が一番印象的だったのがこの作品です。
サブタイトル《辻 惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いてみたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》が、茶目っ気があってとても面白いですよね。
村上隆『雲龍赤変図《辻 惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いてみたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》』
辻 惟雄先生とは、日本美術史学者の第一人者で、著書『奇想の系譜』などで、従来の美術史ではあまり評価されていなかった岩佐又兵衛、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪などを「奇想の画家たち」として取り上げたことで、江戸絵画の再評価を促し、日本美術史に大きな影響を与え、特に伊藤若冲ブームの立役者となった人です。
この作品の元となったのが、『奇想の系譜』でも紹介されている曾我蕭白の『雲龍図』で、現在はボストン美術館の所蔵です。
こちらは縦165センチ、横10mの襖絵ですが、村上の『雲龍赤変図』は横18mもある超大作です。蕭白のダイナミックで勢いのある筆遣い、大胆な構図、ユーモラスな龍の表情などを受け継ぎつつ、村上らしい赤色の濃淡で描かれた雲龍図を見て、「村上隆は本当に日本画家でもあったんだ!」と再確認しました。村上のDOB君やお花などのイラスト風作品と日本画が、スーパーフラットという概念でスーッとつながった瞬間でした。
(参考:you tube 掛軸塾 村上隆「もののけ京都」徹底解説 @ 京都市京セラ美術館 )
金色の空の夏のお花畑
尾形の展覧会のパンフレットの表紙やポスターにもなっていて、村上の主要キャラクターの一つお花を描いた村上ワールド全開の作品ですが、実は尾形光琳の『孔雀立葵図屏風』をオマージュしているそうです。
背景に貼られた金箔とすっくと立ち並んだ花々が、確かに尾形の作品を彷彿とさせ、ここでも村上の日本画と現代美術をつなぐスーパーフラットの概念を体感できました。金色の空のもと、もくもくとした入道雲の前にすっくと立ち笑顔を見せるお花の数々を見ていると、子どもの頃の輝かしい夏の思い出が蘇るような楽しい作品です。
村上隆『金色の空の夏のお花畑』
(参考:you tube 掛軸塾 村上隆「もののけ京都」徹底解説 @ 京都市京セラ美術館 )
第5室 もののけ遊戯潭
《Murakami. Flowers Collectible Trading Card 2023》
同じサイズのキャンバスが108つ並び、お花が様々な表情を見せるこの作品群は、トレーディングカードとして制作したNFT作品を、絵画作品として並行して制作したもの。コンピューターを使って描いたようにも見えますが、じつは全て手作業で制作されたので、この展覧会の中で一番時間がかかったとか。
この作品について、you tubeのインタビューで村上が解説しているのものを見つけました。その中で村上は、自分の作品はほとんど非常に高い値段で売られるが、その値段に見合った価値を購入した人に感じてもらいたい、何度見てもその良さを嚙み締められるようなレベルに到達するまで手をかけ描き込んだそう。しかし、このようなカードゲームのキャラ風の絵はパッと見は幼稚なので、鑑賞に耐えられない、アートとして受け入れられないという先入観が、特に日本人の中にはあるとか。ただ、そんな作品も50年、100年後には浮世絵のように美術として評価されるようにとの思いを持って制作されているそうです。
(参考:you tube 永久保存版 村上隆 もののけ京都 独占インタビュー SUPER FLATと現代美術アート)
私自身、村上のアニメ風の作品に対する違和感というか、あまり共感できない部分があったのですが、この村上の解説を聞き、村上が言うアニメやキャラ的な作品がいわゆるアート作品よりも価値を下に見ていたということかもしれないと腑に落ちました。村上はそんな人々の先入観を身に染みて感じているからこそ、自分の作品を購入してくれた人や、50年100年後、アニメへの先入観を持たない人たちにはその価値を感じてもらえるようにとの強い思いをこめて、この作品に膨大な時間をかけて制作していたようです。
第6室 五山くんと古都歳時記
しめくくりとなる第六章は「五山くんと古都歳時記」。会場である京都の文化をテーマにした作品が並びます。この展示室は豊臣秀吉の「黄金の茶室」さながらに、壁面が金箔貼りになっている点が特徴です。金箔の背景の上に展示された各作品は、まるで寺社で見る大きな障壁画のよう。数々の伝統文化や祭礼に彩られ国内外の人のイメージから着想して描きおろした『京都の舞妓さん アニメ風』『五山送り火』などが初公開されています。
市川海老蔵改め第十三代目市川團十郎白猿の襲名披露の際に祝幕として描かれた「歌舞伎十八番」の原画です。この祝幕は映画監督の三池崇史氏が「十三代目市川團十郎のドキュメンタリー映画を撮影する中で「現代の絵師が描く現代の役者絵を作ってほしい」と村上に依頼し実現したもので、2023年12月1日~24日に京都・南座でお披露目されました。歌舞伎十八番の演目がいきいきと鮮やかに描かれています。
村上隆『京都の舞妓さん』
同展で特徴的だったのが、随所に掲示された、村上自身の「言い訳」コメント。カラフルな手書き風文字で書かれた言い訳に、村上の本音が垣間見えて、とても興味深かったです。
同展の全体の流れをおさらいすると、まず第1室の洛中洛外図で京都の町そのものを俯瞰し、第2室では暗闇の中、東西南北の四神 もののけが平安京を囲む様子を体感、そこからスーパーフラットの概念と日本の美術史のつながりを見せる第3室、第4室と続き、第5室ではトレーディングカードなどの村上の最新トレンドを紹介、最後の第6室では現代のいわゆる京都のイメージから着想した五山や舞妓さんなどの描きおろしで終わります。つまり、過去から現代に繋がる京都の歴史をイメージで巡る構成になっているようです。東京生まれの村上ですが、東日本大震災以降、京都に居を構えたこともあり、京都には特別な想いを持っているそう。村上は東京以外で初めての大規模個展を京都で開催したことにより、自身「私淑している」と述べる『奇想の系譜』に紹介され京の都で活躍した絵師たちと更に深くつながったのは間違いないでしょう。この展覧会を観覧し、村上のことを調べる中で、私も大好きな若冲を初めとする奇想の絵師たちと村上の深いつながりに気づき、村上の今後の活動にも更に興味が湧き、注目していきたいと思いました。