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京都市京セラ美術館開館 「村上隆 もののけ京都」展①

京都市京セラ美術館開館90周年展として開催された「村上隆もののけ京都」展は、現代美術の最前線で活躍する村上隆の、国内では約8年ぶりの大規模個展です。

同展は会期最終日目前の8月31日に来場者45万人を突破し、京都市京セラ美術館の動員記録を更新中だそうです。同館では「ルーブル美術館展」や「ボストン美術館展」「フェルメールレンブラント展」など誰もが名前を知っていて行列必至の人気の展覧会が多いイメージでしたが、今回の村上隆は海外での評価は高いものの、日本では賛否両論というか好き嫌いが分かれるイメージがあったので、今回の展覧会がこんなに人気が出たのが少し意外でした。という私も、恥ずかしながら村上隆のことをほとんど知らずに見に行きましたが、何とも刺激的で印象的な内容で、俄然村上に興味が湧いてきました。そこで展覧会鑑賞後に村上について少し調べたりもしましたので、ご紹介したいと思います。

 

この展覧会は9月1日で終了しています。

 

 

京都市京セラ美術館の場所

https://maps.app.goo.gl/cyAcz9dQErwvpTiz5

 

京都市京セラ美術館の行き方

地下鉄東山駅からの行き方は以下で詳しくご紹介しています。

www.yomurashamrock.me

 

今回のスタートは京都市京セラ美術館です

京都市京セラ美術館のある岡崎エリアは、平安神宮を中心に有名な神社仏閣や美術館、動物園など文化施設も集まり、京都でも人気の観光スポットでもあります。

 

京都市京セラ美術館とは

京都市京セラ美術館は、1928年(昭和3年)に京都で挙行された即位の大礼を記念し、関西の財界や美術界、市民の寄付により「大礼記念京都美術館」として開館。鉄筋コンクリートの近代建築に和風の屋根をのせた特徴的な外観は、昭和初期に流行した和洋折衷の建築スタイルで、公立美術館として日本で現存する最も古い建築です。

 

戦後、「京都市美術館」と名称を変更。京都画壇など京都ゆかりの作品コレクションを誇り、美術系大学の多い京都ならではの地元密着型展覧会も頻繁に開催。「ツタンカーメン展」や「ルーブル展」など新聞社主催の大規模展覧会は京都ではこの京都市美術館で開催されることが多いという印象でした。

 

2020年のリニューアルに伴い京セラが命名権を取得し、2020年3月の再オープンに先立

ち、2019年から京都市京セラ美術館という呼称に変更されました。

 

こちらのメインエントランスは従来の正面玄関をそのままに、一段掘り下げたところに新たな玄関を作ることで、“京都市美術館”のイメージを壊すことなく、機能的なエントランスを実現させました。

 

こちらの受付で観覧料を払います。

 

地下からこの大階段を上がって行きます。

 

 

村上隆 もののけ 京都展とは

本展は、主に海外を中心に活動してきた村上にとって、国内で約8年ぶり、東京以外で初めての大規模個展です。村上が活動初期から深い関心を寄せてきた江戸時代の絵師たちが活躍し、今なおあらゆる芸能と芸術が息づき交わり合うここ京都を舞台に、新たに描き下ろした超大作をはじめ、代表的なシリーズ、国内初公開となる作品など、大多数が新作となる約170点で構成されています。

同展と同時期に開催されていた「キュビズム展」では莫大な予算、特に海外から有名な作品をレンタルする際の輸送費や保険代をかけて開催されましたが、村上の展覧会にはその保険代がかけられない、それは村上の作品がキュビズムのように評価が定まっていないから、という非常に理不尽な理由だったそう。村上はその予算不足に対処するため、既存の作品を海外から運ぶほどの保険代がかけられないなら全てを新作にして、完成させず、完成直前の状態で展示したり、会期中に完成させたりするという斬新な方法を取りました。更に、京都府ふるさと納税の仕組みを使い、返礼品として入場券に加えトレーディングカードを初めとする限定アイテムをつけることにより、目標額以上の寄付金を集めることに成功しました。現在、京都在住の村上は、ふるさと納税の寄付により京都市内在住(通学)の高校生、大学生を無料で招待するという、地元京都への還元と現代アートの振興ということにも成功し、話題を集めました。

 

村上隆略(むらかみ たかし)

1962年、東京生まれ。1993年、東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。博士号取得。博士論文は「美術における『意味の無意味の意味』をめぐって」。

2000年、伝統的日本美術とアニメ・マンガの平面性を接続し、日本社会の在り様にも言及した現代視覚文化の概念「スーパーフラット」を提唱した。2001年、自身が代表を務める有限会社カイカイキキを設立。2005年「リトルボーイ展」(ジャパン・ソサエティ、ニューヨーク)にて、全米批評家連盟ベストキュレーション賞受賞。2016年、文化庁「第66回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

 

阿吽像

さっそく展覧会を見ていきましょう。

先ほどの大階段を上がると美術館の中央ホールには満開の桜を背に、高さ4.3mという巨大でユーモラスな「阿吽像」です。広々としたホールの壁面いっぱいに描かれた桜とその上空?の金銀色の格子模様の上にも舞う桜、そして筋骨隆々としたいかつい顔の、でも頭が大きくてどことなくゆるキャラ的な愛くるしさも感じられる赤鬼と青鬼の像に度肝を抜かれました。

普通、寺院などに祀られている鬼の像というと、四天王の足元で踏みつけられている悪役として表現されている場合が多いと思うのですが、この「阿吽像」の赤鬼、青鬼はそれ自体が主役で、しかもその鬼たちが足元にまた別の鬼を踏みつけているのが珍しいそうです。

この作品は、東日本大震災の後、日本全体が重苦しい自粛ムードになる中、自然災害や疫病、戦争といった様々な災厄を鬼の力で打ち払いたいという願いがこめられ、その後のコロナ禍の厄災をも鬼が踏みつけてやっつけるという意図があるとか。現代アートは、作家が存命の場合が多いので、このような制作意図や背景を聞くことが出来るので、よりその作品を身近に感じることが出来て興味深いですね。 

(参考:you tube 掛軸塾 村上隆もののけ京都」徹底解説 @ 京都市京セラ美術館 )

 

お花の親子

さきほどの「阿吽像」の向こうの入口を抜けると、そこは大きなガラス窓の向こうに広々とした緑豊かな日本庭園が広がっています。そして庭園の池に浮かぶように建っていたのが金色に光輝く「お花の親子」というこれまた巨大な作品です。これには私も本当に啞然としました。日本庭園の向こうに広がる東山を借景に水面からの高さが13mもある金ぴかの彫像がルイ・ヴィトンのトランクの上で微笑んでいます。村上隆の主要アイコンの一つであるお花は大きな口を開けて笑っていて可愛らしいのですが、シュールでもあり、見方によってはちょっと怖い感じもします。表面的な可愛らしさの奥に潜む畏怖の念のような重層的なメッセージもあるのかもしれません。ちなみにこの作品も会期が始まって一か月後あたりに完成したそうです。



上記二点の作品は、いわば本編への導入、番外編になります。そして、この後からが本編ということになります。

 

第1室 もののけ洛中洛外図

この作品は岩佐又兵衛の『洛中洛外図(舟木本)』(国宝・江戸時代 17世紀)を村上流にオマージュしたものです。オリジナルは神社仏閣、祭りや遊里、歌舞伎や浄瑠璃に興じる人々など、京都の様々なシーンが生き生きと描かれています。これを引用し、描き下ろした全長13mにもおよぶ現代の『洛中洛外図』は、東京藝術大学日本画を専攻し、京都の絵師たちの絵にも詳しい村上隆による「京都」への入口に相応しい作品と言えるでしょう。

先ほどの掛軸塾の講師によると村上版洛中洛外図は、岩佐又兵衛版のそれをかなり忠実にトレースしているそうですが、村上版では随所に彼のオリジナルキャラクターであるお花などが登場し、またアクリル絵の具で描かれたことにより非常に色合いがクリアでカラフルになっており、村上隆らしさが存分に発揮されているそうです。

 

第2室 四神と六角螺旋堂

次の部屋は入口が白いカーテンで覆われていて、部屋の中は真っ暗。そこに展示された絵や彫刻などだけに光が当たった独得の雰囲気のある空間です。

そこに描かれているのは部屋の四つの壁面いっぱいに色鮮やかに描かれた四神(しじん)です。四神とは青龍、白虎、朱雀、玄武という東西南北を象徴する神獣のこと。東西南北を山や川、池などに囲まれた平安京が、これらの四神をモチーフとした新作が部屋の四方を囲むことによって表現されています。

本展の名称である「もののけ 京都」ですが、「もののけ」というと水木しげるなどの妖怪のイメージが強かったのですが、もともとはこの四神のように「神」でもある、ということがよく分かりました。

 

 

この部屋で私が一番好きな作品は、西の白虎図です。村上らしさのあるちょっと可愛くてユーモラスな表情の白虎が何匹も描かれ、しかも一つ一つ全て表情が違う。ずっと見ていても見飽きない個性的な神の姿です。

 

四神に囲まれた部屋の中央には鐘楼(六角螺旋堂)がそびえ、「もののけ」がさまよう不穏な気配を祓います。

 

本展全般に言えることですが、とにかく大きな作品が多いので、部屋全体が村上ワールドを体感することが出来るアトラクションのような楽しさがあります。

 

第3室 DOB往還記

1990年に登場した村上の代表的キャラクター「DOB」(村上が1993年に生み出した大きな耳とつぶらな瞳が特徴的なキャラクター)マンガやゲームのキャラクターをモチーフとするDOBは、変幻自在に姿を変え、様々な文脈に接続してきました。村上の提唱する「スーパーフラット」の概念を体現するDOBの往還を辿ります。

スーパーフラットのビジュアル上の特徴は、大和絵や浮世絵など古来から続く日本美術やアニメに見られるような平面的な構成。ビジュアル面だけでなく、村上は、敗戦後の日本を主題にオタクカルチャーやキャラクター文化と日本の美術史を結び付けて「ハイアートも権威もサーもセレブレイトもカーストも無い日本文化の中の『芸術』と語るように、美術と大衆芸術の位置関係がフラットであるという考え方や、戦後社会における日本社会の階級の均一性を表しているとも考察されているそうです。

加えて、新たなキャラクターやフィギュアなどの作品の数々は、現代の「もののけ」と言えるのかもしれません。

不思議の森のDOB君

今回はここまでです。

次回は第4室以降をご紹介します。