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マリー・ローランサンとモード展② ~自由と新たな「女性性」を求めた二人の女性の軌跡

夢見るような淡い薔薇色と灰色、陶器のような白など幻想的な色彩に彩られ、抒情的でうっすらとした哀しみをたたえた瞳を持つスラリとした女性の肖像。これがマリー・ローランサンの絵画の代表的なイメージです。

小学生だった頃、デパートで開催されたマリー・ローランサンの展覧会のポスターを一目見て、彼女の絵の幻想的な美しさにノックアウトされた私。「これを見に行きたい!」と親にねだり、初めて自分の意志で展覧会を見に連れて行ってもらったのを今でも鮮明に覚えています。そして、その大好きなマリー・ローランサンが久しぶりに京都で見られるということで、会期も終了間際の6月初旬に出かけてきました。

 

(この展覧会は2023年6月11日で会期を終了しています)

 

 

京都市京セラ美術館の場所

goo.gl

 

京都市京セラ美術館の行き方

●電車で

地下鉄東西線東山駅」より徒歩約8分

京阪「三条駅」・地下鉄東西線三条京阪駅」より徒歩約16分

 

●市バスで「岡崎公園 美術館・平安神宮前」下車すぐ

 

JR・近鉄・地下鉄「京都駅」から約35分

5系統(A1のりば)、86系統(D2のりば)

 

阪急「京都河原町駅」から約17分

46系統(Eのりば)、5系統(Hのりば)

 

京阪「三条駅」から約8分

5系統(Dのりば)

 

今回のスタートは京都市京セラ美術館です。

平安神宮を中心に有名な神社仏閣や美術館、動物園など文化施設も集まる岡崎エリアにある「京都市京セラ美術館」への行き方は以下をご参照ください。

www.yomurashamrock.me

 

 

 

マリー・ローランサンとモード展

二つの世界大戦に挟まれた1920年代のパリ。それは様々な才能がジャンルを超えて交錯した、奇跡のような空間でした。ともに1883年に生まれたマリー・ローランサンとココ・シャネルの二人は、大戦後の自由な時代を生きる女性たちの代表ともいえる存在でした。

マリー・ローランサンとモード展」は美術とファッションの境界を交差するように生きた二人の活躍を軸に、ポール・ポワレジャン・コクトーマン・レイ、マドレーヌ・ヴィオネなど、モダンとクラシックが絶妙に融合する両大戦間パリの芸術界を俯瞰する展覧会です。

今回は嬉しいことにいくつかの絵画は撮影OKでした。それらを中心にご紹介します。

 

 

Ⅰ レザネ・フォル(狂騒の時代)のパリ

1920年代パリ ― それは戦争の惨禍を忘れるかのように、生きる喜びを謳歌した「狂騒の時代(レザネ・フォル)」。 この熱気渦巻くパリに、奇しくも1883年という同じ年に生まれた、マリー・ローランサンとココ・シャネルは、美術とファッションと いう異なる分野に身を置きながら、互いに独自のスタイルを貫き、まさに1920年代のパリを象徴する存在でした。社交界に属する優美な女性たちの「女性性(フェミニティ)」を引き出す独特な色彩の肖像画で、瞬く間に人気画家に駆け上がったローランサン。一方、シャネルの服をまといマン・レイに撮影されることはひとつのステータス・シンボルとなっていきました。本章では、ローランサン肖像画マン・レイの写真などから1920年代の社交界を見ていきます。

 

1924年6月、41歳の自画像。パリ社交界で人気の肖像画家となった頃の作品で、この時期の作風を特徴づける淡い色彩で構成されています。憂いを湛えつつも落ち着きや自信も感じられる表情が印象的です。白い花の髪飾りとうっすらと肌が透けて見えるふくらんだ袖のついた薔薇色の服とのコーディネートが、今見てもおしゃれだな…と思いました。

わたしの肖像 1924年

 

 

 

当時パリの社交界では、ローランサン肖像画を依頼することが流行となっていました。ココ・シャネルも自身の成功の証にローランサン肖像画を依頼しましたが、当時のシャネルのイメージとはあまりにもかけ離れたこの夢見る女神のような肖像画にシャネルは満足せず描き直しを要求。しかしローランサンも譲歩しなかったため、シャネルはこの絵を受け取りませんでした。ファッションを通して女性を解放し、自らも先頭に立って新しい世界を切り拓いていたシャネルにとって、この絵は受け入れがたいものだったのでしょう。ただ、ローランサン肖像画を描いてもらえば、ほぼ100%こんな感じの絵になるのはシャネルにも予想できたはず。それなのに何故わざわざローランサンに依頼したのか、シャネルの意図も気になります。

マドモアゼル・シャネルの肖像 1923年

 

Ⅱ 越境するアート

1920年代のパリでは「越境」が1つのキーワードとなります。1つ目の越境は「国境を越える」こと。ピカソマン・レイ藤田嗣治など、世界中の若者がパリでその才能を開花。そして2つめの越境は、「ジャンルを越える」こと。美術、音楽、文学、そしてファッションなど、別々の表現が、新たな総合的芸術を生み出すために、垣根を越えて手を取り合いました。その代表がロシア・バレエ団「バレエ・リュス」です。フランスを中心に活躍したこのバレエ団は、「越境」の持つふたつの意味を体現する存在でした。ローランサンとシャネルも、このバレエ団に参加することで表現の幅を広げ、新たな人脈を形成しました。

 

サーカスにて 1913年頃

 

 

バンジョーを弾く人物と、その音楽に合わせて踊る二人の女性。風にひるがえるスカートの裾が蛇腹のように表現され、ダンスの躍動感が伝わってきます。ブラックやピカソの影響を受けたキュビズム的な手法を取り入れつつ、繊細で優美な女性性が際立つ世界観を作り上げています。

本作は1913年のアンデパンダン展に出品され高い評価を得た、ローランサンの代表作の一つです。「アンデパンダン展」とは、1884年にパリで初めて開催された無審査・無償・自由出品を原則とする美術展で、諸派の垣根を越えたアーティスト達によって行われました。まさに「越境」をコンセプトにした美術展なのですね。

優雅な舞踏会あるいは田舎での舞踊 1913年

 

 

 

ローランサンの絵画は、優美な女性性を特徴としていますが、描かれている女性達はほっそりと平面的な体つきで、長い髪やドレスや帽子によって女性と認識されるものの、男性から注がれる性的な視点が抜け落ちた、むしろ中性的な存在に見えます。これも男女の性別を「越境」した存在と言えるかもしれません。それでもなお、なお「女性的」と形容するしかない優美さ、繊細さは、ローランサンだけが描ける美しさであり、世界中で愛されている理由なのかもしれません。

一方、同じ年に生まれたシャネルは、男性服のアイディアを取り込みながら、シンプルで機能的なファッションを創造しましたが、それまでの表面的な装飾を取り払うことで、むしろ本質的な女性の美しさを際立たせたとも言えます。実際、シャネルのシンプルで着心地の良い服は、現代の私たちが見てもとても女性らしいと感じます。

ローランサンとシャネル、二人は表現の仕方は違うものの、どちらも異性や伝統から見たいわゆる「女性らしさ」を脱し、女性自らの立場に寄り添いながら、新たな女性の美を創造したという点では、同じ方向を向いていたように感じます。それは、二人が生きた時代が生み出した大きな流れによるものだったのかもしれません。

 

 

Ⅲ モダンガールの登場

1920年代、新しい女性たち、モダンガールが登場します。第一次世界大戦を契機にした女性の社会進出、都市に花開いた大衆文化、消費文化を背景に、短髪のヘアスタイル、膝下のスカート丈、ストレートなシルエットのドレスをまとった女性が街を闊歩。1910年代にはコルセットを外したスタイルが提案され、賛否両論を巻き起こし、さらに活動的、実用的なココ・シャネルのリトル・ブラック・ドレスが時代を代表するスタイルとなりました。

この時期、ファッション雑誌は写真に可能性を見いだし、マン・レイら気鋭の写真家を起用して、斬新な表現や躍動感ある女性像を提示しました。モダンガールもまた時代の息吹を吸って、どんどん変化していったのです。

 

日よけ帽をかぶって立つ女 1912年

 

 

シャネルは最初、帽子デザイナーとしてキャリアをスタートさせています。当時、帽子はファッションを完成させる重要アイテムでした。その頃の女性はコルセットで腹部を締めてS字カーブの体型を作り、装飾の多いドレスを着て、羽根などで仰々しく飾った帽子が普通でした。一方、シャネルは装飾を抑えたシンプルな帽子を作って自ら身につけ、その新鮮な感覚が周囲から高く評価されました。その後帽子店で成功を治めたシャネルは革新的なビーチスタイルを提案する服飾デザインに乗り出します。

 

一方、シャネルに肖像画の受け取りを拒否され、シャネルとの関係はぎくしゃくしていたローランサンですが、シャネルの帽子店にはその後も足しげく通っていたそうです。

そして、彼女の描く女性たちも様々な色や形の帽子が重要な役割を果たしています。今見ても、斬新なデザインの帽子がおしゃれのポイントになっているな…と感心します。

帽子を被った自画像 1927年

 

 

 

エピローグ:蘇るモード

シャネルのデザイナーを務めたカール・ラガーフェルドが2011年の春夏 オートクチュール コレクションで発表したデザインは、ピンク、光沢のあるグレー、全体を引き締めるかすかな黒、といったドレスの色使いにローランサンの絵画の世界を彷彿とさせました。ローランサンの色使いから着想を得たそうです。機能的でシンプルかつモダンなシャネルの世界観と、装飾的で華やか、そしてクラシカルなローランサンの絵画の世界観、ともに1920年代のパリを象徴する存在でありながら、互いに距離を置いていた二人が、百年近い時を経て新たなモードの中で見事に融合したのです。

 

カール・ラガーフェルド、シャネル

ピンクとグレーの刺繍が施されたロング・ドレス

2011年春夏オートクチュール コレクションより 

 

京都市京セラ美術館では、ラガーフェルドのデザインしたローランサンを彷彿とさせる優美なドレスの展示と合わせて、壁面の大きなスクリーンで2011年春夏コレクションの様子が映像でも紹介されていました。ピンクや淡いグレーのグラデーションで彩られた幻想的で華やかな服に身を包んだモデルたちの足下はフラットシューズで、飛び跳ねるようなウォークはどこまでも軽やか。それはローランサンの描く妖精のような女性達のイメージにぴったりでした。ローランサンもシャネルもとうにその一生を終えていますが、ファッションの中で二人は融合し、さらなる進化を遂げたことを目撃できたのは、とてもワクワクする瞬間でした。

 

ローランサンの絵画は抽象的でありながらも、その色彩の美しさや抒情性からか、日本人にはとても人気があるようです。ふんわりとした感じは「いわさきちひろ」や「竹久夢二」の世界観とも通じる気がします。子どもの頃の私はピカソやブラックの絵画はちょっとハードルが高く感じましたが、ローランサンの絵画を入口にキュビズムを始めとする抽象画にも親しめるようになりました。

絵画鑑賞が大好きになった原点であるローランサンの絵画と久しぶりに再会でき、彼女の生涯をより深く知ることができた本展に心から感謝したいと思います。

 

 

京都市京セラ美術館のある岡崎エリアには平安神宮があります。

www.yomurashamrock.me

 

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