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KYOTO GRAPHIE 京都国際写真祭2023 ②Joana Chomali

KYOTO GRAPHIE 京都国際写真祭は、日本および海外の重要作品や貴重な写真コレクションを、趣のある歴史的建造物やモダンな近現代建築の空間に展開した 京都ならではの特徴ある写真祭。

第11回目を数えるKYOTO GRAPHIE 2023のテーマは「BORDER(境界線)」。ここ数年のコロナ禍で、世界中がこのBORDERを意識したのではないでしょうか。

さまざまな会場で行われているKYOTO GRAPIE 2023の展示の中から、祇園周辺の2つの展示をご紹介します。今回はそのうちの二つ目です。

(KYOTO GRAPHIE 2023は既に会期を終了しています。2023年4月15日~5月14日まで)

 

 

KYOTO GRAPHIE京都国際写真祭の概要や2023年のテーマについては以下でご紹介しています。

www.yomurashamrock.me

 

 

今回ご紹介するのはJoana Chomali(ジョアナ・シュマリ) at RYOSOKUIN(両足院)です。

goo.gl

 

前回ご紹介したCoco Capitan at ASPHODELを後にして、次の会場へ向かいましょう。

 

ASPHODELの前の道を先ほどと反対に南へ向かいます。

 

70mほど南へ進むと左手に壱銭洋食のお店があり、その向こうは四条通です。

 

四条通を南へ渡ります。

 

四条通の信号を渡ったら、四条通沿いを東(左)へ向かいます。

 

四条通を180mほど東へ進むと、右手に「花見小路」の入口の石碑が。花見小路を南(右)へ入って行きます。

 

古都京都らしい紅殻格子(べんがらごうし)や犬矢来(いぬやらい)をあしらった趣深い建物が立ち並ぶ、祇園のメインストリート 花見小路を南へ進みます。

 

花見小路を200mほど進むと、左手に京都の春の風物詩「都をどり」を観覧できる祇園甲部歌舞練場があります。

 

祇園甲部歌舞練場から更に80mほど進むと、花見小路の南のスタート地点、建仁寺です。さっそく建仁寺の北門から入って行きます。



北門から一歩境内に入ると、花見小路の喧騒とは別世界の禅寺らしいキリリとした空気が漂います。左手に見える鐘楼の手前を左へ曲がります。

 

左へ曲がる手前の足下に、KYOTO GRAPHIEの案内板が出ています。鐘楼の前の道を南へ進みます。

 

前方左手が両足院の塀です。正面の石畳の小道を進みます。

 

小道を10m余り進むともう両足院の入口です。門前にKYOTO GRAPHIEの赤い幟と「毘沙門天王」の石碑があります。

 

虎と百足が護る両足院の毘沙門天

山門を入るとすぐ左手にあるのが「毘沙門天堂」です。

毘沙門天多聞天ともいい、四天王のひとつ。北方の守護神です。そのため、京都では、王城の北に位置する鞍馬寺毘沙門天が有名です。両足院の毘沙門天像は、鞍馬寺毘沙門天像の内から出てきた胎内仏だとか。

戦国時代 比叡山織田信長によって焼き討ちにあった際、鞍馬寺の僧侶が比喜多養清にこの像を託したといいます。比喜多氏が筑前・黒田家と縁があった関係で、黒田長政がこの尊像を内兜に収めて関ケ原の合戦で活躍し勝利を収めたと言われており、そのあと尊像は代々黒田家に信仰されましたが、明治維新で両足院に寄進されました。

それ以降、勝利の神として商売繫盛、合格祈願、誓願成就の他、戦前は祇園の芸妓、舞妓が「芸事が上達しますように」「良い旦那さんが見つかりますように」などとお参りしたことから「祇園の縁結び」として良縁成就のご利益があるとも言われています。

 

上の写真をよく見ると、狛犬ならぬ狛トラが毘沙門天堂を守護しています。

その毘沙門天は、古くから<寅の年、寅の日、寅の刻>に出現するという伝えが多いため、そのお使いは虎だとされてきました。このため、毘沙門天を祀るお寺を訪ねると、たくさんの虎が見られます。両足院も例外ではありません。

 

ちなみに百足(ムカデ)も古くから毘沙門天のお使いとされていて、両足院毘沙門天堂の手水舎に掲げられた提灯にもムカデが!

 

香炉の左右にも阿吽の虎が。すべり落ちないように必死でしがみついているように見え、思わず笑ってしまいました。この香炉の手前にも百足の彫刻が施されています。

 

今回の展示会場となった両足院にある毘沙門天堂のお参りを済ませ、さっそく本題のKYOTO GRAPHIE2023のJoana Chmali の作品を見に行きましょう。

 

写真を撮り忘れましたが、受付で入場料を払います。そのあと履物を脱いで入ります。

 

靴箱の横の小さなスペースに枯山水の坪庭があります。

 

ジョアナ・シュマリ Alba'hian

ジョアナ・シュマリは1974年生まれ。コートジボワールアビジャンを拠点に活動するビジュアルアーティストで写真家です。広告代理店でアートディレクターとして働いた後、写真家として独立し、アフリカに焦点を当て、アフリカの無数の文化について学んだことを表現しています。

 

今回シュマリの作品は両足院の大書院内外に展示されていました。大書院とは、もとは寺院僧侶の私室、書斎ですが、現在は学術研究の一時的研究室としてや法要の控室、大寄せの茶席、展示会場など多様な用途で使用されています。

 

今回シュマリが両足院で展開しているプログラム「Alba‘hian(アルバヒアン)」はアグニ語(コートジボワールのアカン系民族の言語)で「一日の最初の光」を意味します。毎朝、シュマリは夜明けに起床し散歩に出かけます。新しい一日の始まりの朝の光が物質世界の姿を徐々に明らかにしていくのと同じように、この観察を通して、シュマリは自分自身の思考や現実認識の変化に気付いていきます。朝の散歩は彼女にとって、自分を見つめる儀式のようなものなのです。

 朝の散歩の際には、シュマリは風景を写真に撮ることを習慣としています。その写真に、コラージュや刺繍、ペインティングやフォトモンタージュなど、様々な技法を組み合わせながら、何枚もの薄い布のレイヤーを重ね合わせます。

長い時間をかけていくつものレイヤーを縫い合わせ、布の上にモチーフやドローイングの刺繍をほどこしていくプロセスは、まるで瞑想のようにも感じられます。

 

白木の四角い箱の中に優しい色合いの幻想的な作品が展示され、箱の中を覗き込むようにして作品を鑑賞する珍しいスタイルです。

 

MAYBE I GREW UP A LITTLE TOO SOON

 

VIBRATING TO A DIFFERENT MEASURE 

 

SILENT EDUCATION

 

YOU ARE MY HOME PLANET

 

ガラス戸越しに見えている書院前庭は京都府の名勝に指定されている池泉回遊式庭園です。庭園の北側には茶室が二軒あります。

 

写真左奥に見えている茶室「水月亭」とその右奥の木に隠れて見えにくいのですが「臨池亭」にもシュマリの作品が展示されています。

 

I CHOOSE PEACE

 

THANK YOU FOR THE SAKURA

 

「THANK YOU FOR THE SAKURA」の傍で展示ガイドをされていた、恐らく美術系の学生さんに「素敵な絵ですね!」と声をかけたところ「シュマリは今回の展示のために、アーティスト・イン・レジデンスで京都に滞在していました。今年は桜が咲くのがすごく早かったので、シュマリが滞在する時期にまだ咲いているか心配していたのですが、ちょうど綺麗に咲いている木がありました。早朝の散歩で彼女はこの桜からインスピレーションを得て、こんな素晴らしい作品が出来たんです」と嬉しそうに話しておられました。シュマリがこの作品を制作している様子をすぐ傍で見ていたこの学生さんのことが、ちょっとうらやましくなりました。

 

シュマリと刺繍

シュマリは、2019 年にイギリスの国立博物館 V&A(ヴィクトリア&アルバート博物館) で展示された写真シリーズ「Ça va aller」で、持続可能性に関する名誉ある国際賞である「ピクテ賞」を受賞しました。V&A は、このシリーズから 4 枚の写真を常設コレクションとして入手し、それを記念した彼女へインタビューしました。そのインタビューの中で、自ら撮影した写真に刺繍をほどこすことで作品を仕上げるようになったきっかけを語っています。

 

テロ事件のトラウマからの回復として

「きっかけは、2016 年 3 月のグランバッサムという町でのテロ事件でした。3 人のガンマンが路上やビーチリゾートで発砲。その三週間後にグランバッサムの町を歩き回り、写真を撮りました。まるで人生がメランコリックなスローモーションの中を痛々しくかけ巡っているかのように、エネルギーは以前とは異なっていました。ほとんどの写真には、人々が一人で街を歩いていたり、ただ立って一人で座って物思いにふけったりしている様子が写っていました。

グランバッサムの風景やそこで感じたこととつながる方法として、スマートフォンで撮影したストリート写真のプリントに刺繍を始めたのです。」

 

刺繍により写真のBORDERを押し広げる

「作品に刺繍を使うことは、私の写真に触れ、物理的に介入したいという本能的な欲求に応えたものでした。私は、まるで傷を修復するかのように、常に同じステッチを使用しました。撮影した写真に多くの時間を費やすというアイデアに特に惹かれます。1枚の写真に取り組み、エネルギー、思考、感情、希望、恐怖、喜びなどを「ダウンロード」するのに数週間かかることもありました。…私の母方の祖母が、わずかに残ったワックス生地を使ってパッチワークをしながら、一日中縫い物をしていたのを覚えています。私は彼女の忍耐力に魅了されました。この種のパッチワークはNZASSA、N'zassa(ンザッサ)と呼ばれ、私の国で見られる数多くの文化の統一を表しています。それは異なるものが補完的に一つに集まることです。

私の祖母は何時間もかけて縫い物をしていましたが、自分のドレスを作るのに使っていたミシンもあるのに、どうしてこんなに苦労して針と糸を使って縫い物をするのだろうと不思議に思いました。私はよく彼女になぜミシンを使わないのかと尋ねましたが、彼女は何も答えずに私にそっと微笑むだけでした。今は手縫いの効果がよく分かりました。私は刺繍をしながら瞑想状態になれるのが大好きです。それは私の人生にとても良い影響を与えてくれました。それぞれのメディアは、融合して 1 つの作品となるため重要です。私は写真の限界を押し広げたいと考えています。よりゆっくりとしたペースで、個人的で親密な方法で写真を使用する新たな方法を模索するため。」

 

シュマリの作品は、KYOTO GRAPHIE2023のパンフレットの表紙にもなっています。空に向かって少女の口から金色の無数の糸が広がる作品は、少女の生きる世界が沢山の人や世界とつながり彼女自身の限界を押し広げている…まさに、今年のテーマ「BORDER」(境界線)を超える様子を表しているようです。

 

 

 

 

色鮮やかで幻想的な作品と、禅寺のモノトーンの世界、そして屋外に広がる池泉回遊式庭園の瑞々しい植木や花の色が不思議な調和を醸して、見ごたえ充分でした。作品のテーマは複雑なアフリカ社会の抑圧や不安、希望とそれらを統合する様を表現しているのでしょうか。これらはコロナ禍を経験した世界中で通じるメッセージでもあると感じました。

 

KYOTO GRAPHIE2023 はすでに終了していますが、ジョアナ・シュマリの作品は今までに見たどの作品とも違った印象深いものでした。今後もシュマリの動向をチェックしていきたいと思いました。