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東福寺② ~「永遠のモダン」を体現できる本坊庭園(方丈)

京都五山の第四位に列せられる東福寺は、京都でも最大規模の伽藍を有する由緒正しき大寺院です。京都有数の紅葉の名所でもある東福寺ですが、青紅葉のこの時期は比較的人も少なく参拝しやすいのでお散歩に最適です。今回は、まるでモダンアートのような東福寺の庭園をご紹介します。

 

 

東福寺の場所

goo.gl

 

東福寺の行き方

電車で

 ・阪急京都線

   「京都河原町駅」で京阪電車に乗り換え後、京阪本線東福寺駅」下車

   徒歩約10分

 ・JR,京都市営地下鉄

  各線「京都駅」でJR奈良線に乗り換え後、「東福寺駅」下車、徒歩約10分

 ・京阪戦車で

  京阪本線東福寺駅」下車後、徒歩約10分

 

バスで

 ・京都駅から

   市バス 88、208系統に乗車、「東福寺」下車

 ・四条河原町から

   市バス207系統に乗車、「東福寺」下車

 ・東山三条から

   市バス202系統に乗車、「東福寺」下車

 ・祇園から

   市バス202、207系統に乗車、「東福寺」下車

 ・平安神宮、岡崎から

   市バス100、110系統に乗車後、「東山七条」で88、202、207、208系統に乗り換え、「東福寺」下車

 

最寄り駅のJR東福寺駅からの行き方は、以下のブログで詳しくご紹介しています。

www.yomurashamrock.me

 

今回のスタートは東福寺の日下門です。

東福寺の駅からは上記の地図の赤線のルートでやってきました。

東福寺とは

臨済宗東福寺派大本山山号は慧日山。摂政九条道家が、当時奈良で最大の寺院東大寺と、奈良でも最も盛大を極めてた興福寺になぞらえ「東」と「福」の字を取り、京都最大の大伽藍を造営したのが東福寺です。円爾(えんに);聖一国師(しょういちこくし)を開山として鎌倉時代の嘉禎2年(1236)から19年の歳月をかけて七堂伽藍が完成しました。京都五山の第四位に列せられ、「東福寺の伽藍面(がらんづら)」とまで言われ壮観を極めましたが、度重なる兵火や火災で仏殿、法堂、庫裏などを焼失したものの、以後逐次再建されてきました。

禅宗伽藍を代表する室町最古の三門(国宝)をはじめ、浴室、東司(便所)禅堂(いずれも重文)など室町時代の禅僧の生活を知る上で貴重な建築が多数残っています。

通天橋は京都でも一、二の紅葉の名所で、方丈の四方の周囲に枯山水の庭園を巡らせたものはこの庭園のみで、平成26年(2014)国の名勝に指定されるなど、見どころ満載の大寺院です。

 

本堂

さて、日下門から入ると「東福寺の伽藍面」の名の通り、見える堂宇はどれも大変大きくインパクトがあります。まず目に入るのが本堂です。

本堂は仏殿兼法堂です。明治14年(1881)に仏殿と法堂が焼けた後、1917年から再建工事にかかり、1934年に完成しました。入母屋造、裳階付き、高さ22.5m、間口41.4mの大規模な堂宇で、昭和期の木造建築としては最大級のものです。大きすぎて、うまく写真に収まりません。

本尊の釈迦三尊像明治14年の火災後に塔頭万寿寺から移されたもので、鎌倉時代の作です。通常、本堂内は非公開ですが、春の涅槃会の際には公開されるようです。

 

方丈

本堂の左隣にあるこれまた立派な方丈の入口です。

禅宗寺院における僧侶の住居を指す「方丈」。東福寺では、法堂(本堂)の北側に位置し、国指定名勝として登録されている「東福寺本坊庭園」で有名です。本堂(法堂)と同じく、明治の火災で焼失しましたが、明治23年(1890)に再建。庭園は昭和14年( 1939)、作家は重森三鈴の手により、鎌倉時代の風格を基調に、現代芸術の抽象的構成を取り入れた近代的禅宗庭園として完成されました。拝観の際には、上記写真の庫裏で受付をして入ります。

 

本坊庭園(方丈)「八相の庭」

東福寺本坊庭園(方丈)は、明治14年(1881)の火災により、仏殿、法堂、庫裏とともに焼失しましたが、明治23年(1890)に再建されました。広大な方丈には東西南北に四庭が配され「八相成道」に因んで「八相の庭」と称しています。方丈の四周に庭園を巡らせたものは、この東福寺本坊庭園(方丈)のみです。

当時、日本全国古庭園実測調査を終えたばかりの新進の作庭家・重森三令(しげもりみれい)により、それまでの日本庭園にこめられた伝統的な思想や意匠を取り入れつつも、今までに無い斬新で意欲的な庭園が造り上げられました。というのも、作庭にあたって東福寺から三令に課せられた制約が「本坊内にあった材料はすべて廃棄することなく、もう一度再利用する」ということだったからです。これは禅の教えである「一切の無駄をしてはならない」ということから提示されたのです。禅の修行をしたことの無い三令でしたが、逆転の発想で、制約された中で最大限の美を追求するという禅の境地を表現し、様々な新たな手法を盛り込むことに成功しました。

 

南庭

庫裏から渡り廊下へと進むと、すぐ見えてくるのが南庭です。210坪の枯山水庭園は、日本庭園によく見られる蓬莱神仙思想を中心とした意匠形態となっています。蓬莱神仙思想とは古来中国大陸で信じられてきたもので、東の大海の彼方に仙人が住む「蓬莱」「方丈」「瀛洲(えいじゅう)」「壺梁」と呼ばれる四仙島があるというものです。この庭園の斬新なところは、写真ではわかりにくいのですが、この四仙島を表現するために、長さ18尺(約6m)もの長石を基本に、巨大な石をダイナミックに配置していることです。こんなにも巨石を配した石庭は他には無いそうです。石庭というと、龍安寺銀閣寺、建仁寺などが有名で、どれも縁側で庭を眺めながら静かに自分と向き合うイメージですが、東福寺のこの巨石群は、見る者を圧倒し、心を外へ解き放つようなイメージがあります。南庭には、この巨石群に加え、渦巻く砂紋で「八海」を表現、さらに写真にはほとんど写っていませんが、西の奥には「五山」になぞらえた築山を配しています。

 

西庭

西庭の大市松模様「井田の庭」は、日本の伝統的な市松模様をサツキの刈り込みと葛石(かづらいし)で表現しています。このモダンなデザインは、かつて本坊内の敷石の縁石(葛石)を再利用してできあがったものです。こんなにも直線的な材料を、自然の山を模した築山や石組み、樹木などを植えた庭園に使うのは、難しいというより、通常の庭づくりでは考えられなかったことでしょう。それでも使用しなければならないということで三令が考え抜いた末にたどり着いた答えが「市松」模様だったのです。

白い砂地に青々としたサツキの刈り込みの市松模様が映え、何とも不思議な光景です。

 

西庭から北庭へと続く途中には「通天台」と呼ばれる舞台が設けられ、眼下に渓谷「洗玉澗」を一望できます。

北庭

ウマスギゴケの緑との対比も色鮮やかな市松模様の敷石は、勅使門から方丈に向けて敷き詰められていた切石を再利用されたものです。

西庭の大市松を受けて初めはほぼ正確な小さな市松模様で配置され、だんだんとそれが崩れていき、最後はポツンポツンと一石づつ配しながら東北方向の谷へと消えていく様を表現しています。

こちらもモダンアートのような、斬新なデザインですね。彫刻家イサム・ノグチはこの庭を「モンドリアン風の新しい角度の庭」と評したそうです。

「コンポジション2 赤、青、黄」(1930年)

モンドリアンと言えば、白地に黒い垂直線と水平線のグリッド模様と三原色で構成された絵画「コンポジション」で有名ですね。東福寺の北庭もこんな雰囲気ですね~

ちなみに、日本庭園で苔を育て維持するのは大変労力が必要なのですが、東福寺本坊では、ちょうど真横に谷があり川が流れており、苔の生育に適した空中水分が得られるので、こんなにも瑞々しい苔の庭が完成したそうです。

 

東庭

東庭の表しているものは、星座の「北斗七星」で「北斗の庭」と呼ばれています。円柱、白川砂、苔、背後の二重生垣で表現しています。

北斗七星を表す円柱は、東福寺の「東司」(トイレ)で使用されていた礎石で、東司の解体修理の際の廃材を使ったものです。円柱を使うという手法は、明治から昭和初期にかけて京都を中心に活躍した第七代小川治兵衛が有名です。三条大橋五条大橋で使われていた橋脚を払下げ、平安神宮の池に沢飛石のような橋を架け、龍のように見える「臥龍橋」を円柱を使って表現しているのです。全国の古庭園を3年かけて実測調査した三令もこれを意識していたのかもしれません。

 

禅宗の庭園は、東福寺だけでなく夢窓疎石小堀遠州など有名な作庭家による優れたものが数多く残っていますが、重森三令が目指したのは、日本全国の庭園を研究しつくしたうえで、更に新しい思想や手法を積み上げ創作した「永遠のモダン」でした。京都の寺院は長い歴史を持ちながらも、新進気鋭の芸術家に発表の場を提供するなど新しい文化の創作にも柔軟に対応しているところが多いように思います。「一切の無駄をしない」という禅の精神に基づき、伝統的な精神に新しいデザインを融合し、さらなる高みを目指した重森三令に庭園を依頼した、東福寺の懐の深さにも脱帽です。

 

東福寺には本坊庭園(方丈)の他にも素晴らしい庭園がありますが、それはまた次回ご紹介したいと思います。

 

 

 

東福寺塔頭寺院 勝林寺もすぐ近くにあります。

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重森三令の作庭した庭園がある松尾大社

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七代目小川治兵衛の臥龍橋がある平安神宮

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