京都御所の西に、イノシシが護る小さな神社があります。狛犬ならぬ狛イノシシ、手水舎にも「幸運の霊猪」やイノシシの大絵馬、水飲み場にもイノシシ像…
コロナ禍で何かと気持ちも塞ぎがちですが、神社のあちこちに見られるイノシシに元気をもらえるかもしれないな…と思い、京都では唯一の「イノシシ神社」とも呼ばれる護王神社を訪ねてみました。
護王神社の場所
護王神社の行き方
電車で
バスで
・市バス51系統「烏丸下長者町」下車すぐ
今回のスタートは地下鉄「丸太町駅」です。
北改札口を出ます。
改札を出て、コンビニの左横の通路を進みます。
出口2へ向かいます。
階段を上がります。
階段を上がり切ると、烏丸通に出ます。烏丸通の向こうは京都御苑です。
烏丸通を北(左)へ向かいます。
烏丸通を北へ向かうと、すぐ左手に大きな洋館があります。
大丸ヴィラ
「大丸ヴィラ」という説明書きが掲げられていました。
大丸ヴィラは昭和7年(1932)当時の株式会社大丸 社長下村正太郎の住宅として、ヴォーリス建築事務所の設計で建てられました。ヴォーリスとは、アメリカ出身で日本に数多くの西洋建築を手がけた人で、ヴィーリス合名会社(のちの近江兄弟社)の創立者の一人としてメンソレータム(現メンターム)を広く日本に普及させた実業家でもあります。
大丸ヴィラの特徴としては、チューダー様式(イングランドの15世紀末頃から17世紀初頭までの建築様式)で建てられ、木造風に見えるものの実は鉄筋コンクリート造りの3階建てです。当時いわゆる日本化が進んでいた洋館の中で、珍しくほぼ純粋なチューダー様式で建てられ、昭和59年(1984)には京都市登録有形文化財に登録されました。
洋館のかわいらしさと日本建築にはない凝った装飾などが見られ、中に入ってみたいところですが、非公開だそうです。
さて大丸ヴィラを通り過ぎ、更に烏丸通を200mほど北上すると、石の鳥居が…
ちょっと寄り道してお参りしていきましょう。
菅原院天満宮神社
菅原院天満宮神社です。手作り感あふれる黄緑色の看板は、学問の神さまとして全国で天神さんと親しまれている菅原道真公の似顔絵のようです。
菅原院天満宮神社は菅原道真公のお生まれになった霊地で、道真公の先祖三代の住居地でもあり、菅原道真公とその父是善卿、祖父清公卿を祀っているそうです。
「烏丸の天神さん」とも呼ばれ、人々に親しまれ厚い信仰が寄せられています。
さすが天神さん、手水舎には臥牛が…
菅原道真公産湯の井戸がありました。道真公がお生まれになった時、この井戸の水をお使いになられたそうです。道真公にあやかり、丈夫で賢い子どもになるように安産祈願の神さまとしても祀られるようになりました。
天神さんと言えば学業の神さまですね。
境内にもたくさんの学業成就を祈願した絵馬が納められていました。
その他、末社として癌封じや腫物等の病にご利益があると言われている「梅丸大明神」も祀られていました。
さて、菅原院へもお参りしましたので、再び烏丸通を北上していきます。
菅原院のすぐ北隣には、赤レンガ造りの美しい教会がありました。
こちらは平安女学院京都キャンパスの敷地内にある日本聖公会聖アグネス教会です。聖堂は明治31年に聖三一大聖堂として建てられたゴシック様式の建物で京都市の有形文化財に指定されています。
先ほどの大丸ヴィラといい、聖アグネス教会といい、古い神社仏閣のすぐ近くに洋風建築が町並みに自然に溶け込んでいるのも、京都ならではですね。
烏丸通をさらに北へ向かいます。
聖アグネス教会から250mほど北へ歩くと、木の塀に昔のお札の絵が並んでいます。
護王神社とは
護王神社は平安京の建都に貢献した和気清麻呂(わけのきよまろ)公を御祭神としています。もとは高雄山神護寺の境内にありましたが、明治19年(1886)、明治天皇の勅命により、現在地に移され、御所の守護神とされています。
さて、和気清麻呂がご祭神の護王神社になぜイノシシの像がたくさんあるのか?ということですが、これには日本史上唯一、天皇家以外の人間が天皇になろうとした事件「宇佐八幡宮神託事件」が関わっています。この事件は私が高校生の時の日本史の授業でも、先生が「これは日本史上本当に大きな事件だ!和気清麻呂公がいなければ、もしかしたら現在まで続く天皇の系譜が途絶えていたかもしれないんだぞ!」と力説していたことを思い出しました。
この事件は、奈良時代に称徳天皇の寵愛を受けた道鏡(どうきょう)という僧侶が天皇位を得ようとして阻止された事件です。道鏡は天皇の寵愛から「法王」という天皇に準じる高位にまで昇りつめ、769年宇佐八幡宮(大分県の宇佐神宮)が、「道鏡を天皇にすれば天下が泰平になる」との神託を称徳天皇に奏上しました。天皇は和気清麻呂を宇佐八幡宮へ派遣。清麻呂が神託を請うと「天皇の後継者には必ず皇族の者を立てなさい。無道の者は早く追放してしまいなさい」というご神託を下されました。清麻呂公がこれを天皇に報告したため、道鏡の怒りを買い、清麻呂公は大隅国(鹿児島県)へ流罪となり、その旅の途中、道鏡の放った刺客により足の筋を切られてしまいました。その道中でどこからともなく300頭ものイノシシが現れ、清麻呂公を守りながら道案内をしてくれ、清麻呂公の足の痛みも不思議と治ったそうです。
この話から、清麻呂公を祀る護王神社には、その崇敬者により狛犬の代わりに狛イノシシが奉納され、「イノシシ神社」として人々に親しまれているそうです。
また、清麻呂公が悩んでおられた足萎えが治ったことから、護王神社は足腰の守護神として広く信仰されています。
毎月21日の午後3時に足腰祭が行われます。参列者は本殿での祈願祭の後、表門前の御千度車を回し、足腰の大御守の下をくぐって足腰の健康安全を祈願します。(参列自由ですが、感染症拡大の状況などにより変更になる場合もあるかと思いますので、詳しくは護王神社の公式サイトをご確認ください)
更に、皇室の危機を救った忠臣として、戦前には十円紙幣に肖像が印刷されました。歴代の十円紙幣のうち、6券種に採用され、護王神社が描かれていたり、裏面にイノシシが描かれているものもありました。
イノシシだらけの境内
まず出迎えてくれるのが、この狛イノシシ。
表門の前の鳥居を護る阿吽のイノシシ像です。キリリとした表情が頼もしいですね。
続いて鳥居のすぐ後ろにいたイノシシ像。淡い朱色がおしゃれです。
境内に入り、右手にあるのが霊獣手水舎の「幸運の霊猪」。鼻を撫でると幸運が訪れると言われています。
霊猪の周りにも小さいイノシシがぎっしり。可愛いすぎます!!
拝殿の前にも狛犬ならぬ狛イノシシ。先ほどご紹介した「宇佐八幡宮神託事件」より、「清麻呂公のお社には狛犬ではなく狛イノシシを」という崇敬者の声により、明治23年に建てられたそうです。
祈願殿の南側に展示されている真ん中の像は、護王神社境内に生い立っていた樹齢300年の桂の木から作られた、チェーンソー彫刻の「飛翔親子猪」像です。これは祈願殿建設に際し、やむなく伐採した、桂の根株を、チェーンソーアートの世界チャンピオン城所ケイジ氏が「生命のよみがえり」をテーマに彫刻し、翼の生えた神猪が子猪を守る姿が表現されているそうです。「飛翔親子猪」の両側には、同氏が北山杉で彫刻した作品「昇り神猪と降り神猪」が展示されています。
本殿前にそびえたつ招魂樹(おがたまのき)の根本には、願掛け猪の石象があり、その周りには座立亥串(くらたていぐし)と言う願掛けの串がたくさん刺し立ててあります。自分の名前と願い事を書いた紙札をはさんで、願掛け猪の前に立てて願掛けをするという護王神社独特の信仰だそうです。
水飲み場にもイノシシ像が。この像が一番ユーモラスで可愛らしいですね。
感染対策のため、ひしゃくは一時撤去され、センサーにより水が出るようになっていました。
足萎難儀回復の碑
本殿向かって右側の招魂樹(おがたまのき)のそばにある「足萎難儀回復の碑」には、足腰の病気やケガの平癒のご利益があるそうです。参拝者は足形の石の上に乗ったり、碑をさすったりして祈願します。
和気清麻呂公銅像
平成10年(1998)、和気清麻呂公千二百年祭を記念して、和気清麻呂公銅像が建てられました。造形作家松本繁来氏の手によって、御所に向かい真っすぐな眼差しを注ぐその像は、清廉潔白と称された清麻呂公のイメージをよく表しています。
さざれ石
清麻呂公像のすぐ後ろには、国歌「君が代」に詠まれる「さざれ石」があります。幅3メートル、高さ2メートルで、まさに大きな巌(いわお)です。大小様々な石が集まって頑強な巌になっているさまは「君が代」の和歌に詠まれた国を思う心を表しているかのようです。
御神木カリンの木
樹齢100年を超える御神木は、京都の巨樹名木百選にも選べばれるほど有名だそうで、秋には甘い香りの黄色い大きな実をつけます。この実で造ったカリン酒は、喘息によく効くそうです。
護王神社はこじんまりしていますが、たくさんのイノシシ像がユーモラスだったり可愛らしかったりと見ごたえ充分で、イノシシ像を探しながら参拝するのも楽しく、元気をもらえる神社でした。
また、皇室の危機を救った忠臣である和気清麻呂公を祀る神社が洛西の高雄山神護寺から御所の西隣に移され、清麻呂公が6種類もの十円紙幣に登場するなど、明治以降の天皇を中心とする国家の形成において、和気清麻呂公が非常に重要視されたことがよくわかりました。
京都御所のすぐ西に位置し、御所の北には相国寺もあるなど、お散歩にはちょうど良い距離感で、四季折々に楽しめるスポットとなっています。
これから春に向けて、京都御所では梅や桃、そして桜なども次々と咲きそろってきますので、是非一度足をお運びください。
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