京都おすすめ散歩道

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松尾大社 太古より続く神宿る社~酒の神を祀る~③「永遠のモダン」を表現した松風苑

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京都でも一、二を争う一大観光地「嵐山」。その一つ手前の駅「松尾大社駅」前にあるのが「松尾大社」です。京都どころか日本でも最古の神社の一つです。

京都では「お酒の神様」として有名ですが、嵐山ほどには観光客も多くなく、初詣やお宮参りなどで訪れる地元の方以外は、京都人でも訪れたことがある方はそんなに多くは無いのではないでしょうか。

しかし調べてみると山吹の名所として、またすばらしい庭園や多くの文化財など見どころ満載の興味深い神社です。

緑濃い背後の松尾山を含む約十二万坪の広大な境内には、古代から続く神の気配に満ちています。

 

松尾大社の場所

goo.gl

松尾大社への行き方

阪急電車松尾大社」駅下車
JR京都駅→(地下鉄)→四条烏丸→(阪急京都線)→桂→(阪急嵐山線)→松尾大社
所要時間:京都駅から40分

■市バス「松尾大社前」バス停下車
JR京都駅→(市バス・嵐山大覚寺行き→松尾大社
JR京都駅→(京都バス・苔寺行き)→松尾大社
所要時間:京都駅から40分

 

さて、いよいよ今回のお散歩の一番の目的である、庭園の見学です。

 

●松風苑~「永遠のモダン」~伝統と現代表現が調和した三つの庭園

松尾大社の松風苑三庭は、現代庭園学の泰斗・重森三玲(しげもりみれい)氏(明治29年〜昭和50年)が長年にわたる庭園研究の奥義を結集し、この地上に残す最高の芸術作品として、全身全霊を傾注して造られた庭園です。総工費1億円、三庭に用いられた四国・吉野川産の青石(緑泥片岩・りょくでいへんがん)は200余個、丸1年の工期を経て、昭和50年に完成した昭和時代を代表する現代庭園です。それらは、三玲の得意とした立体造形感を全面に押し出した石組み構成を中心として、動と静を表現しています。伝統を重んじながらも、現代的な表現を目指した重森三玲の終生の目標であった「永遠のモダン」のまさに最終表現の庭園だそうです。。

では、さっそく庭園へと向かいましょう。

 

●神泉「亀の井」から「曲水の庭」へ

f:id:yomurashamroch:20210620135406j:plain本殿は無料で参拝出来ますが、松風苑は有料(大人500円)です。社務所で拝観料を払いましょう。本殿右手に少し進むと、社務所の手前に「松風苑 神像館 入口」の看板があります。

 

本殿と客殿をつなぐ廊下の下をくぐって進みます。

f:id:yomurashamroch:20210620135432j:plain廊下の下をくぐった先に、神泉と書かれた「亀の井」があります。

f:id:yomurashamroch:20210620135502j:plainこの霊泉は、酒造家はこの水を酒の元水として造り水に混和して用いると腐敗しないと言い、延命長寿、よみがえりの水としても有名です。茶道、書道の用水として活用したり、飲用として地元の方たちが汲みに来られたりしています。

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社務所には、持ち帰り用の瓶も販売されています。

f:id:yomurashamroch:20210620135608j:plain亀の井の手前の社務所を右へ進みます。

f:id:yomurashamroch:20210620135634j:plain頭上に注意して廊下の下をくぐると「曲水の庭」に出ます。

f:id:yomurashamroch:20210620135706j:plain曲水の庭です。今日一番の見どころです。満開のつつじが色鮮やかで初夏の日差しによく映えていました。

曲水の庭は、平安貴族の人々が慣れ親しんだ、雅遊の場を表現したもので、城南宮で催される「曲水の宴」の一場面を思い起させます。曲水の宴とは、水の流れのある庭園などで、流れのふちに出席者が座り、流れてくる盃が自分の前を通り過ぎるまでに詩歌を詠み、出来なければ罰として盃の酒を飲むという、なんとも雅な行事です。松尾大社平安時代、京の都を守る神様、すなわち東の「賀茂の厳神」と並び、西の「松尾の猛霊」と尊び称せられて隆盛を極めており、当時の時代背景を顕して、艶やかな中にも、気高い当時の面影を内の秘めて、しかも極めて現代風に作庭され、四方どちらから見ても美しいのがこの庭の特色です。また、高い木が一切無いことから、空間の上部が開放的な構成になっています。

枯山水とつつじの競演が見事で、まさに伝統と現代的な表現の融合を感じる庭園です。

では、次の庭園へ進みます。

 

●上古の庭から霊亀の滝へ

f:id:yomurashamroch:20210620135738j:plain上古の庭です。先ほどとはうって変わって背後の松尾山と一体化した野趣あふれる庭です。深い緑と巨石のモノトーンだけの静謐で神秘的な空間が広がり、自然への畏怖の念が自然と沸いてくるようでした。

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遠く昔、上古の時代には、どの場所にも神社も社殿もなく、山中の巨石などが神霊のやどる聖地とされており、その場所は磐座(いわくら)、あるいは磐境(いわさか)と言われていました。松尾大社でも今から千三百年前の昔、大宝元年(701年)に現在地にご本殿が建てられる以前は、神社の後方に松尾山頂上近くにある磐座で祭祀が営まれていたそうです。この磐座を模して造られたのが上古の庭です。庭の中央の巨石二つは、ご祭神の男女二柱を、地面に植えられたミヤコザサは人の立ち入れない高山の趣を、そしてこれらを取り巻く多数の石は、随従する諸神の姿を表現しているそうです。

f:id:yomurashamroch:20210620135900j:plain上古の庭を後にして、順路を進みます。

f:id:yomurashamroch:20210620135932j:plainこの先に磐座登拝の入口があるのですが、平成30年9月の台風21号による倒木・山崩れ等により、磐座登拝道の修復が不可能となり、今後一斉の磐座登拝は廃止されるそうです。いつか機会があれば登ってみたいと思っていたのに残念です。 

f:id:yomurashamroch:20210620140009j:plain更に道なりに進むと、亀の井の後方に二社を祀る社と滝があります。

f:id:yomurashamroch:20210620140058j:plain向かって右が四大神社(しのおおかみのやしろ)、左が三宮社(さんのみやしゃ)です。

 四大神社のご祭神は春若年神、夏高津日神、秋比売神、冬年神の四柱。四季折々の神々を祀ることで一年中の平安を守護いただけるそうです。

三宮社のご祭神は玉依姫命。山城地方開拓の功労神で農業殖産の守護神だそうです。

どちらも小さいお社なのに、ものすごく霊験あらたかなんですね!

 

f:id:yomurashamroch:20210620140133j:plainさて、この二つのお社の後方に「霊亀の滝」があります。

 小さな滝ですが、清涼な滝の水しぶきはマイナスイオンに満ちているのでしょうか?

澄んだ空気が感じられます。滝の手前には先ほどの看板にも記されていた滝御前が鎮座します。

ご祭神は罔象女神(みずはのめかみ)で、万物生成を司る水神だそうです。

手前の看板に「天狗岩」の場所が示されています。本当に天狗が出そうな雰囲気です。

実際に、この滝は松尾大社一番のパワースポットと言われているようです。

f:id:yomurashamroch:20210620140209j:plain天狗岩は鳥居の向かって左下だと思うのですが、詳しいことは分かりません。

 

 霊亀の滝を後にして、再び廊下の下をくぐり、三つ目の庭へ向かいます。

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 三つ目の庭は、楼門の手前の茶店の横から入ります。

 

f:id:yomurashamroch:20210620140404j:plain蓬莱の庭です。重森三玲が設計図を描き、その息子・完途(かんと)が作庭。現在は孫にあたる千青(ちさを)が手入れにあたっているという、重森家三代が関わる回遊式の庭です。池には松尾大社の神使である鯉と亀が住んでいるそうです。f:id:yomurashamroch:20210620140455j:plain蓬莱とは不老不死の仙人の住む海上の山、蓬莱山です。池が海、岩が海の浮かぶ島を表現し、庭全体が羽を広げた鶴の形をしています。その蓬莱山にあこがれる蓬莱思想は鎌倉時代に最も流行し、作庭技術にも採用されました。鎌倉将軍源頼朝は、松尾大社に対し神馬10匹・黄金百両を献じて深い尊信の念を捧げ、以後も武門の崇敬は変わることなく明治時代まで続きました。

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池の周りを一周しながら庭を眺めると、場所によって変化する風景を楽しむことができます。あたかも仙人が住むような神秘的な風景から、蓬莱思想へと思いを馳せてみるのも一興ですね。

 

今回は亀の井から松風苑の三つの庭、そして霊亀の滝などを巡ってきました。太古から続く自然の神への信仰と、現代的な要素も取り入れた庭園に見られる各時代の美意識を感じることのできた、非常に中身の濃い散策でした。

 

松尾大社には、まだまだ見どころがたくさんあります。

次回は境内のあちこちにある亀や鯉のパワースポットや、境内にある末社などをご紹介します。